3 文豪グルメ 短編集【文スト】

泉鏡花　　　蒲鉾 ページ20

「A、鰤焼けた」

「じゃあ次は蒲鉾切ろうか」


　大晦日。
　元旦の為のお節を、共に準備中。


　煮物や焼物、膾等の時間のかかるものは終了し、後は切って並べるだけのもの。


　包丁を器用に翳し、
　次なる獲物は。


「色とりどり……綺麗」


　お正月と云えば紅白、
　其れは食にも通じていて、


　紅い蒲鉾、
　白い蒲鉾、

　山葵味の緑色、
　栗味の黄色に、
　昆布の巻いてあるものや、
　味の想像も付かないカラフルな蒲鉾まで。

　
「紅は魔除け、白は清浄。鏡花ちゃんの色だね」

「……？」


　意味は解ったが、理解は出来ない。雪降り頻る外を見つめ、Aは板から蒲鉾を外すと、


「半円形はこれくらいにして、じゃ、飾り切るか」

「うん、教えて」


　蒲鉾が何故お節に入っているのかといえば、その半円形が、元旦の日の出の様だから。


「じゃあ赤は梅型にして、緑は松で、こうして、こう」

「わかった」


　Aの手本を一目見ただけで、
　その工程を理解し、


　手綱に薔薇、孔雀等、
　真似て蒲鉾の飾り切りを、量産していく。


「あ、そうだ。こんなのもあるよ、鏡花ちゃん」

「わ……」


　それは、
　上から一センチ位に切り込みを入れ、
　その切り込みの先を付け根に差し込めば。
　

「ぴょんぴょん」


　兎の完成。
　黒胡麻で目も付けてあげる。


「可愛い」

「ね」


　キラキラと瞬く鏡花の瞳。
　そして気付けば、


「……わ」


　蒲鉾で、楽しい庭が出来ていた。
　元からの種類も豊富だが、切り過ぎた。


「兎は、ニ羽だけ。
　これは、あなたと、私」


　然しとても満足そうな鏡花を見て。


「可愛すぎて食べられない……」

「Aも……可愛い」


　小さな手の中で、その兎達はくっついた。


　二人微笑む最後の夜。
　もう直ぐ鳴りゆく、除夜の鐘――

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