治癒の異能を持つ少女はポートマフィアに愛される【文スト】

36　葡萄 ページ37

「あ！ まだ咲いてる！ 良かった！」


　優しい陽の中、Aは大樹の幹に触れる。
　花びらがちらほら、枯れかけているが、ゆったりと舞い出した。


「来年も、楽しみにしてるね」


　大樹に向かって云う。
　そして背をもたれ、歌を歌う。


　小鳥が空を夢見て、木の高い所を目指す歌。


　これが突然歌いたくなった。


　青い風、
　花の香り、
　樹の感触、
　全てがエネルギーになる感じがする。


　ふと空を見上げると、何か白いものが見えた。


　飛行機？


　そして歌い終わると。


「It's Beautiful！ 言葉は難しいけれど、素晴らしい歌声だね！」


「わ」


　目の前に誰かが立っていた。
　金髪、青い目、ハンチング帽に、農家の人の様な格好をした男性。


　ポートマフィアに、こんな人いたかしら。


　というか、いつの間に？


「あ、ありがとうございます。び、吃驚しました」

「ははっ、資料より可愛いね。ミヤビっていうのかい、それ」


　かんざしを指差され、少し縮こまるA。


「僕はジョン・スタインベック。君は、筧A？」

「はい、そうですが……」


　私の名前を知っているし、ポートマフィアの方なのかな？
　それ以外の人は入れないって、首領云ってたし。


　外国の方、他にもいたんだなあ。
　なんだかとても、爽やかな方だなあ。


「君、葡萄は好きかい？」


　唐突の質問。
　葡萄？


「えーっと、そうですね。先日も美味しい葡萄酒を頂いて……とても好きです」

「そっか！ ……じゃあ」


　彼は微笑んだ。


「君を拘束する蔓には、葡萄を多めに実らせてあげるね」


　足と腰に違和感。


「え？」


　時既遅。
　大きく太い蔓が左足に、腰に、右腕に、首に巻き付き、深い色の葉が生い茂り、艶のある葡萄の実がすずなり、強く締め付けられた。


　付けていたかんざしが地面に落ちる。


「……っ」


　声の出ない叫び。


　え、なん、で。


「んー……女の子を誘拐するのは気が引けるけど、これもこれで払いが増えるからね。ごめんね」


　この人、ポートマフィアの人じゃない……？
　だったら、どうやって。


「まあ、この丘にだったら、とても大きい入口があるからね！」


　辛うじて空を見上げると、


　白い鯨が、いた。


「なんで……空に、鯨が……」


　遠のいていく意識。


「おやすみ、可愛いLady」


　その言葉を最後に、途切れた。

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