39 歳月、星を待たず ページ40
「だぁっ、はっ、おら!避けんじゃ、ねェ!」
「ほらほらー、命中率下がってるよー、冷静さを欠いては何事も」
「五月蠅ェ!」
傍から見ていれば完全にじゃれ合いの様にしか見えない。
しかし誰も見てない、誰も知らない、
真っ白な施設の屋根上で、ちょこちょこ動く太宰治へ、アクロバティックに蹴り技をかます中原中也。
完全に、いつも通り、おちょくられている。
「てゆーかさあ、何で安吾の言いなりになってんの?何かしたの中也、え、嘘!」
「手前ェにゃ関係ねェ!」
「はあ、もうしつこいなあ。Aちゃんが政府に戻ったって、何にもならないと思うのだけれど」
瞳を閉じて、風を感じる太宰。
「この世界から、二人で逃げられれば、どんなに良いだろうね」
「死ねや太宰!」
「おっと」
空が赤い。
もう直ぐ夜になる。
夜になれば、彼女の異能が発動する。
私は死ぬことが出来、
しかも痛みはなく、
愛する人と一緒に、
寂しくない、
悲しくない、
永遠に別れることのない、
ぬくもりの中で死ぬことが出来る。
のだけれど。
何故だ。
夕日よ、もっとゆっくり沈みたまえ。
夕空よ、もっとゆったり燃え上がれ。
海原よ、もっとゆっくり揺れたまえ。
星よ、光らなくていい、そこにいるだけでいい。
願いが、止まらない。
望みが、止まらない。
絶対に叶うことはないのに、願ってしまう。
「一生の、お願いだから……」
幾度となく発言したその言葉を、初めての感情の中で言う。
本当に、何故。
一番の願いのはずなのに、何故。
叶わなくていいと、思っているのか。
「余所見なんかで手ェ抜くな!」
相変わらずキレのある足刀といがんだ声の反応に遅れ、咄嗟にその右足をがしりと掴んだ。
「うおぅ?!」
「うっわ重っ」
避けられると予想してたのか、力の働き加減を見誤った中原は足を掴まれたまま一回転し、宙吊り状態になる。
太宰に触れられた為、自らの異能『汚れつちまつた悲しみに』が無効化し、頭の帽子が垂直に落ちていった。
「「あ」」
二人して声が揃う。
帽子はゆらゆらと重力にのって、下で一芸を魅せていたアシカの頭にピッタリとのった。
謎の歓声。
演出だと思われたのか、係員だけが疑問顔で。
「あらま、後で返してもらわないとだね!」
「いーから早く手を離せ!」
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午(プロフ) - 凛音さん» 凛音様、コメントありがとうございます!これからも頑張ります! (2019年7月13日 20時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - いつも読んでいます!とても面白い!私は文ストの中では中也と太宰が好きなんです、これからも頑張ってください! (2019年7月13日 14時) (レス) id: 54808a52f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午 | 作成日時:2019年6月30日 0時