30 罰無くして配所の星を見る ページ31
回り過ぎてくらくらしたのか、Aは座り込んだ。
目の前の球体の水槽を触る。
冷たい硝子に隔てられた、真っ白いクラゲたち。
彼らはそこから出れないし、
私も彼らに触れることは出来ない。
本当は分かっている。
いや、分かってないのかもしれない。
「だから、善い事を繰り返しても、過去の悪い事があるから」
過去は消えない。
未来は見えない。
「どうしたって私は、善い人間には」
「いやいやもう、なっているじゃないか」
太宰さんの声が初めて響いた気がする。Aは顔を上げる。
彼は立ち膝を付き、目線を合わせ、あの心中に誘ってくれた時の様に。
「悪い人間でも、善い人間にはなれるんだよ。人生を変えることは、出来るんだ」
妙に力強く感じる言葉だった。
「その切欠は、言葉だったり、出会いだったり、或いは、ふとした気付きだったり」
まるでそれは嘗て、彼もそうであったかの様な。
「君は光の方に向いて、いいんだよ」
ああ、私たちは、
どうしてこうも、
闇ばかり見てしまうのか。
それを探し出すのが、
生きると言う事なのか。
「君は死ぬ前に、ちゃんと生きてもいいんだよ」
私は。
私はまだ、悪い奴だ。
罪悪感で、死んでしまいそう。
「太宰さん、善い人だね」
けれど、Aは笑う。
「私はね、悪い人なんだ」
太宰も笑う。
「でもAちゃんとなら、善い人になれる」
それは、
昔の古い友人にも似た、
あの虜囚の少女に見た、
私が救えた、
私が救えなかった、
私を救ってくれた彼らの様に。
「だから」
「うん」
私たちは、寄り添い合った。
互いの震える身体を抱き締めて、青の光に照らされながら、心まで、寄り添いながら。
「私は貴方と、生きて、死ぬ」
「私は貴女と、生きて、死ぬ」
その愛を、確かめ合った。
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午(プロフ) - 凛音さん» 凛音様、コメントありがとうございます!これからも頑張ります! (2019年7月13日 20時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - いつも読んでいます!とても面白い!私は文ストの中では中也と太宰が好きなんです、これからも頑張ってください! (2019年7月13日 14時) (レス) id: 54808a52f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午 | 作成日時:2019年6月30日 0時