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26 禍福星による ページ27

「そういえばさ、Aちゃんってどっから来たの?あ、言える範囲でいいけど」


 太宰治は問うてみた。

 出来れば、家に帰してあげたいと思っているところで。

 出来れば、こんな若いみそらで生死に関わってほしくないと思っているところで。


 太宰は結局、まだ半信半疑な自分を正当化しようとしている。

 この罪悪感を、消せたらどんなにいいかと。


 夜になっても、
 この子の願いは叶わないということを。


 そして当のAは、どう言おうか考えているようだった。

 気軽に、街のこの辺りからだよーって、言ってくれるだけでもいいんだけど、と太宰が考えていると。


「えっと……」

「うん」

「箱、かな」

「ハコ?」


 思ってもいない、全く想像打にしていなかった答えが返ってきた。

 箱?


「広くて高くて、欲しい物は何でも手に入るけど」


 でもね、心は狭いままで、満たされない。

 形あるものを与えられても、
 形ないものは満たされない。


「みんな優しいし、規律もない、ようなものなのに、でもなんか違う、あの箱の中では」


 みんなは笑っていたけれど、楽しいの?
 わたしも笑っていたけれど、楽しいの?


「そんな所だから、壁も、直ぐ壊れちゃうし」


 本当に欲しい物は、分からない。


「……へー、そっかそっか」


 厳しいご家庭なのかなと太宰は想像する。


 家や学校を箱と勘違いするのは、
 与えられた場所をそう呼ぶのは、

 よくある事だけれど。

 自ら掴みに行ったものだけは、
 何故か、そうならない。

 形あるものも、
 形ないものも。


 何故だか全く分からないが、


 思春期は、

 青の時代は、

 色々あるからねえ、
 色々あるんだね、


 Aちゃんも、私も。


 それにしても。


「Aちゃんの想像力は、凄いね」


 頬杖を付き、太宰さんが、まるで改まったように、語りかける様に、目線を合わせて来た。

 ひゃあ、なんか恥ずかしい。


「なんかまるで、物書きになれそう」


 物書き?
 小説家?
 私が?

 真逆!


「いやあ、文才もないし、そもそも想像力だけで小説家になれないですよ」


 えへへと笑う。


「でも、想像力、あったらいいですよね。その人の叶えたい願いに近付けられるし」


 箸を置く。


「やっぱり、本当の願いを叶えてあげたいから」


 本当の、願い。
 本当の願いとは、何だろうか。

 私の、本当の願いとは。


 太宰治は思案する。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 太宰治 , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 凛音さん» 凛音様、コメントありがとうございます!これからも頑張ります! (2019年7月13日 20時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - いつも読んでいます!とても面白い!私は文ストの中では中也と太宰が好きなんです、これからも頑張ってください! (2019年7月13日 14時) (レス) id: 54808a52f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年6月30日 0時

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