24 星は逆夢 ページ25
石Aは鍋を覗き込んだ。
くつくつ、くつくつ。
蟹が煮つめられている。
正座をして、じっと見つめるAに対し、太宰はだらりと足を伸ばして、脱いだ長外套を投げ出し、彼女を見つめる。
「Aちゃんそれ、見つめてるの面白い?」
「うん。泡立ってて、面白い」
「そっか」
鍋の中には他に、葱や白菜、豆腐に白滝、茸が昆布出汁の海を泳ぎ、揺れている。
そして大振りな蟹。
滅多に食べられない貴重なご馳走。
誕生日の時位しかお目にかかることは出来ない。
それを。
太宰さんと一緒に食べられるなんて。
夢のよう。
夢じゃないけど。
湯気、熱気。
出汁の香り。
沸騰の音。
全て、感じられる。
あのお茶会位しか、人と食事をする事はままならなかったけれど、やっぱり、誰かと一緒が一番楽しい。
楽しいから。
きっとこの時間も、直ぐに終わってしまうのだろうな。
茹だる蟹を見つめながら、Aは言う。
「蟹さん、気持ち良さそう」
「ああ……そうかもね」
「死ぬ時は、こういう感じがいいかな」
「ん?」
疑問顔だが、彼女の発言の意図を掴む為、太宰はAと同じ様に、上から鍋を見始めた。
泡立つ出汁の海に沈む蟹を。
「海の中に沈んでいくような、
空から落ちていくような、
でも痛みは無くて、
愛する人と、ただただ死にゆく」
理想。
憧れ。
願い。
其れを、現実にするのが、私の異能力。
「それはそれは、ナイスアイデアだよ、Aちゃん」
「そうですか?」
「うん、とても素敵だ」
鍋から離れ、
「善いねえ」
パタパタと顔を仰ぎながら、
「そういう風に、私は死にたい」
太宰さんの目は、とても、澄んでいるようで、私は確信に迫れた様な気がして。
「了解です」
破顔する。
「あ、温度は低くもなく高くもなくだよ」
「勿論ですよー」
笑い合う。
傍から見ていればおかしな二人だが、おかしくない。
とても真面目に、
これからのことを、
考えている二人なのだ。
280人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
午(プロフ) - 凛音さん» 凛音様、コメントありがとうございます!これからも頑張ります! (2019年7月13日 20時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - いつも読んでいます!とても面白い!私は文ストの中では中也と太宰が好きなんです、これからも頑張ってください! (2019年7月13日 14時) (レス) id: 54808a52f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:午 | 作成日時:2019年6月30日 0時