16 暗がりに星を繋ぐ ページ17
「し、失礼します……」
ゆっくりと背に覆い被さり、肩に手を置いた。
背中、大きい……落ち着く。
「Aちゃん軽いなぁ。お腹空いてるのかな?よし!まずは朝御飯食べに行こうか」
「う……うん」
太宰さんの声を聞いていると、とてもとても、心が軽くなる気がする。
どうしてだろう。
太宰さんもしかして、人の心を和らげる異能を持っているとか?
な訳ないか。
異能力者も初めて見たって言ってたし、私もこの年になって初めて存在を知ったし。
知らなければ、
気づかなければ、
良かったのに。
でも、髪の色がこんなに変わったら、いやでも気づく、知ることになる。
もう戻らない。
もう戻れない。
然し、今は。
「太宰のお兄さん、どこ連れてってくれるの?」
「んー、とりあえずは私の行きつけのお店にしようかな?」
知ってても、
気付いても、
楽しい。
嬉しい。
太宰さんの願いを叶えられたら、きっと私、幸せになれそうな気がする。
だから。
「ん?Aちゃんどうしたの?」
「なんでも、ないよ」
ぎゅうっと手の力を強め、くっついた。
落ちないように、
離れないように。
へにゃっとAは笑った。
太宰も何かくすぐったいのか、つられたように、にへにへする。
人通りの少ない路地を周れば、一軒の喫茶店。こんな朝早くから、珈琲の薫りがする。
ベルの音を鳴らし、店の中に入ると、未だ他の客はいなくて、店主らしき初老の男性が、珈琲豆を煎っていた。
こじんまりとした店内。
テーブルと椅子の他に、ランプや古びた本、暖炉、絵画、壺、ピアノ――が所狭しと並べられた、朝の日が差し込む、優しい空間。
「なんだか……」
「ん?」
Aはそのゆらゆらした空気に呑まれそうになりながら、言う。
「此処だけ、時が止まった王国の、時計の中みたい」
呆然と言う。
「…………」
太宰は反応する。
「善い詩だね」
窓に面した光の中にAをゆったりと下ろし、その隣に太宰は座る。
「どれがいい?好きなものを選びなさい」
「これ……」
「じゃあ私も同じの!飲み物は?」
「ホットコーヒー……」
「私も!」
なんか本当に、
デートみたい。
どきどき、
わくわく。
初めてだけど、
太宰さんとなら、
楽しい。
楽しいから。
日が沈んでも、
星が瞬き始めても、
夜が来るのが、
楽しみ。
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午(プロフ) - 凛音さん» 凛音様、コメントありがとうございます!これからも頑張ります! (2019年7月13日 20時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - いつも読んでいます!とても面白い!私は文ストの中では中也と太宰が好きなんです、これからも頑張ってください! (2019年7月13日 14時) (レス) id: 54808a52f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午 | 作成日時:2019年6月30日 0時