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48 陽射し ページ48

カランカラン。


 突っ込んできた車に破壊された壁も、凹んだカウンターもしっかり直った店内に、鐘の音。

 織田が、視線を向けたその先に、Aはいた。
 柔らかな表情でこちらを見つめている。


 近付くと、そのテーブルの上には一冊の本が置いてあった。
 何時も見ていた、あの真っ白な本。


 その本に、栞は挟まっていなかった。


「思ってたより早くて吃驚しました」

「嗚呼」


 織田は、座らない。


「あれ。カレー、いいんですか?」

「ん」

「夜でもいいのに」


 Aは立ち上がった。織田は本を手に取る。


【この本が最後まで読めますように】
【海の見える部屋で】


 並んだ文字に、胸の高鳴り。


 珈琲の代金を支払い、店を出ると、暖かな陽射しが、優しく照っていて。


「お久し振りです。あの後、お身体とか、お仕事に障りはなかったですか」

「特には」

「作之助さん、お強いですもんね」


 笑うと、腕を絡めてきたので、Aもぎゅうっと力を強めた。


「うちのカレーはね、牛スジ使うんですよ」

「ほう」

「圧力鍋でトロトロですよ」

「早く食いたい」

「ふふっ、……すぐそこですから」


 じっくり炒めた牛スジを更に圧力鍋で煮る。するとルーと違えるほど柔らかくなり、味の深みが増す。


 凄い久し振りに作ったけど、まあ、大丈夫でしょう。


「食べ終わったらどうしましょうね。あ、本読んでてください。作之助さんなら、直ぐに読めてしまいますよ」

「そうだといいがな」

「私はその間、手直しを。新作、めっちゃ駄目出しされたので」

「そうか」


 貴方と共に、いたいから。


 だから私は、
 これからも小説を書き続ける。


 辛い事も
 悲しい事も、
 嬉しい事も
 楽しい事も、


 怖いけど、


 それはきっと、乗り越えて行けるから。


 世界は広い事を、知ったから。


 だから。


 溢れてくる物語を、
 本に、しなくては。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 織田作之助 , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 怜さん» 怜様、ご感想ありがとうございます!お優しいお言葉で、泣きそうでございます。これからも頑張ります! (2022年1月31日 20時) (レス) @page45 id: 05323f7eaa (このIDを非表示/違反報告)
- 場面を想像させる様な綺麗で幻想的な文に、しっかり作りこまれた物語。今まで読んだ織田作の夢小説の中で1番好きです。これからも頑張って下さい。 (2022年1月31日 1時) (レス) @page45 id: 64384c94d7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 柊 琥珀さん» 柊 琥珀様、ご感想ありがとうございます.......! 嬉しい.......! (2022年1月9日 0時) (レス) @page42 id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
柊 琥珀(プロフ) - 書き方が好みだ……。 (2022年1月8日 17時) (レス) id: 17f9b038b0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - Asukaさん» Asuka様、ありがとうございます!めっちゃ頑張って書きます! (2021年8月24日 20時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年6月27日 0時

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