ゆめみるイヴ ページ10
「そう、だよね……Aちゃん、ありがとう。ごめんね」
涙のぼやけたフィルターの向こうに、私の見知った潤一郎さんの穏やかな表情が見えた。それを見て、何故だか更に涙が溢れた。
泣かないで、と焦ったように声をかけられたけど、私自身なんで泣いてるのか分からないからどうしようもない。
涙の洪水でぐちゃぐちゃになった顔が恥ずかしくて両手で覆った。少し遠くからサイレンの音が響いてくる。不愉快なはずのサイレンが、まるで教会の鐘のように感じられた。
ふと、サイレンに混じって誰かの悲鳴、叫び声が聞こえた気がした。涙が止まる。やはり聞こえる、"気がした"じゃない。
そっと目に当てていた両手を退けて、上目遣いで辺りを垣間見る。倒れていたはずの男が立っていた。
どうして?気絶してたんじゃ?
目を見張って男を見つめる。男は右手にナイフ、左手に泣き叫ぶ女の子を抱えていて、女の子の首筋スレスレにナイフを当てていた。
「妙に強いと思ったんだ……お前ら武装探偵社だろ!?異能力者集団の!」
女の子の母親らしき人が、男の仲間に羽交い締めされていた。女の子は黒髪に青い目が映える端正な顔立ちで、七、八歳くらいに見える。
「その異能力とやらで!!俺達のこともどうにかしてくれよ、なぁ!?」
男が叫ぶと同時に、警察がやってきた。しかし男は何も怯む様子はなく、寧ろナイフをより首に近付けた。微かに血が滲む。
「おかあさん……!」
───「おねえちゃん!」
女の子が涙混じりに叫んだ。鏡花の夜叉から逃げたあの日、手を引く私に八歳の妹も叫んでいた。
女の子が叫んだその一瞬、私はそこに妹の姿を見た。希しくも、女の子も妹も黒髪に青い目をしていた。
「ッ異能力『細ゆ」
「月羽!!」
谷崎さんが何か言おうとするのに被ってしまったけど、そんなの気にする余裕は無かった。余裕というか、理性が無かった。
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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/
作成日時:2023年11月16日 21時