携帯電話とイヴ ページ8
私が声を出したのと被せるように、地を這うような低い声が響いた。同時に男が突然呻き始めた。男がパッと手を離してナオミさんは床に落ちる。
男は床に座り込んでもがいていた。心臓発作か何かかと思ったが、そうではないらしい。誰だ、手を離せと言いながら苦しそうに首を押さえている。
私はナオミさんの傍に駆け寄って、咳き込む彼女の背中をさすった。ナオミさんは私を横目で見ると、振り絞るような声で言った。
「ッナオミのことは、いいですから……ッ、早く携帯電話を!」
私は床に転がっていたナオミさんの携帯電話を掴み取り耳に当てた。電話はまだ切れていない。
『もしもし?もしもし?どうかされましたか?』
「銀行強盗です、今!ヨコハマ銀行の建物の中で……男が何人か……はい、怪我人、はいないです……」
警察に聞かれるまま一通り答えると、今向かっていますとサイレンの音が電話越しに聞こえた。とりあえず警察は呼べた、あとは数分堪えるだけ。通信の切れたナオミさんの携帯電話を見つめて溜息をついた。
……そうだ、ナオミさん!
はっとして顔を上げると、潤一郎さんが男に馬乗りになって両手で首を絞めているのが、蜃気楼のようにゆらゆらと見えるようになってきていた。ナオミさんはその後ろでしゃがみ込んで息を整えている。
成程、これが彼の持つ幻影の異能力『細雪』……。
「ナオミさん。大丈夫、ですか?」
とりあえずここから離れなければ。他の人達が怯え集まる隅の方の椅子へ彼女を座らせた。
首に絞め跡が残っていないのを確認すると、私は椅子の上に放置されていたビニール袋から、先程薬品店で購入したペットボトル水を取り出してナオミさんに差し出した。
「Aちゃん、ありがとうございます……」
苦しくはなさそうだけど弱々しい声。大分落ち着いてきてはいるけれど、やはり無茶はさせられない。ナオミさんに携帯電話を返しながら、銀行内を見渡した。
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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/
作成日時:2023年11月16日 21時