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甘えられないイヴ ページ5

「あの、ナオミさん。そっちは重い方です」


「ええ、知ってますわ」


「ですからその。私が重い方を持ちますから」


「ふふ、Aちゃん。こういうときは素直に甘えるものですわよ」


 それにナオミの方がお姉さんですから!と彼女はぽんと胸に手を当てた。その姿は何とも可愛らしい感じで、むしろ私より幼く見えた。



××


 自動扉が開いて、外に出る。手に提げているビニール袋の数がまた増えて、薬品店に来る前よりも歩くのが億劫に感じられた。

 与謝野さんに教えられたどの企業の医療品がいいだとかを覚えようと反芻しながら、みんなの一歩後ろをついて行く。与謝野さんがあっと思い出したように立ち止まった。



「そういえば、銀行に用があるんだった。ちょっと行ってもいいかい?」


「全然大丈夫です」



 潤一郎さんが顔を上げて答えると、そこから数十歩もしない所の建物へ入った。空調の効いた空気が快適で気持ち良い(ただ、乾燥してて目がしんどい)。

 荷物を椅子に置くと、与謝野さんは銀行員の立つ窓口へ向かった。残された私達三人は椅子に座って、小さな声で談笑する。


「兄様ったら、恥ずかしがらないで?昨夜はあんなに素直でしたのに」


「ナ、ナオミそれ以上は……!!」


「あのお二人とも、本当にそれ以上は……此処銀行の待合です……」


 ……談笑というより、危ない雰囲気を醸し出す二人を私がギリギリで止める感じだったけど。周囲の人の目が痛い。

 それに気づいたのか気づいてないのか、びくっと肩を震わせ「あ、僕御手洗行ってきます」と逃げるように潤一郎さんは席を立った。



「ねえAちゃん、最近はどうですか?」


 こちらに顔を向けて、ナオミさんは尋ねた。


「どう……そう、ですね。社でのお仕事にも慣れてきて、こうやってナオミさんとも話せるようになってきて」



 孤児院にいたときより、楽しいです。そう言うと、ナオミさんはぱあっと花が咲いたように笑った。

 ナオミさんは優しい。いきなり社に押しかけてきたこんな無愛想な人間のことを、本気で心配して気にかけてくれるのだ。


 ナオミさんはそっと私の耳に顔を寄せた。拡声器(メガホン)のように口元に当てる白い手から、ほのかに甘い香りがした。


「Aちゃん。ナオミは事務員ですから、あんまり詳しくは知らされてませんけど。貴女はここ(探偵社)にいるんですから、きっと───」

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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/  
作成日時:2023年11月16日 21時

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