【降誕祭】魔人のヨルカに召された少女 ページ26
あは、じゃさっさと帰ろう!とゴーゴリさんはウインクをした。じっとその顔を見つめる。何を考えてるのか読み取れない、無機質な瞳と目が合う。
「あれ、Aちゃん?」
「……私」
気づいたら口から零れていた。ゴーゴリさんは一瞬呆気に取られたように目を丸くする。
「何だか幼い頃のことが、あんまり思い出せないんです。だから……だから、えっと。町がすごくきらきらしていて、綺麗だなって。此処は暗くて寒いけど、きっと町は明るくて暖かいから、あとで私町に」
そこまで言って、ハッと口を噤んだ。お互いのことよく知らないくせに、こんなこと言っても彼を困らせるだけなのに。
「──な〜〜んだ、そんなこと!Aちゃんも案外年相応なんだねぇ」
でもゴーゴリさんは困った素振りは見せず、ケラケラと笑いながら「でも君のことをドス君がお待ちだから、そんなことは一旦忘れてしまおう」と杖で頬をつついてきた。
そんなこと、そんなこと。そっか、これは"そんなこと"なんだ。それくらい些細で易しくてどうでもいいこと。
コクリと頷けば、彼は満足そうに微笑んで外套を広げる。今度こそ私は外套をくぐった。
**
そろそろ眠ってしまおうかという頃、フョードル様に呼ばれた。フョードル様の部屋の扉の前に立つと、すぐに気づいて向こうから開けて下さった。
「今日はどうでしたか」
部屋へ入るなり、フョードル様は尋ねる。質問の意図がよく分からず、いつも通りでしたとだけ答えると、フョードル様は横目で私を訝しげに見た。
「あまり変なことを考えるものではありませんよ」
その言葉に私は背筋が凍るのを感じた。この方のことだから、私とゴーゴリさんの会話を全部把握してたって可笑しくない。
「ご、ごめんなさい。でも、あれは本当に些細なことですから。もうすっかり忘れましたから」
「ええそうです、あれは忘れるべき些細なこと。ですから、そのようなことに心を奪われてしまうのはとても愚かなことです」
穏やかに、呆れたように、諭すように。フョードル様は歩み寄ってきて手を伸ばした。思わずぎゅっと目をつむる。でも痛いのも苦しいのも来なくって、恐る恐る目を開けるとフョードル様は目の前に立ってるだけだった。彼に手を握られると同時に何かを握らされる。
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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/
作成日時:2023年11月16日 21時