【降誕祭】魔人のヨルカに召された少女 ページ24
探偵社に潜入するより前、Aが鼠の下へ来て少し経った頃の話。
扱いは番外編ですが、過去編のようなものとして見て頂きたいです
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ふっとこぼれた息が、まっ白な湯気になって見える。暗くて冷たくて薄汚い地下室、白い息はまるで一筋の光のようにはっきり私の目に写った。
血塗れたナイフを握ってるのとは反対の手で、赤く汚れた頬を拭い、足元に転がる冷たくなった男を蹴る。部屋の隅にうずくまって歯をガタガタ言わせている老婆の前に立つと、その身体にぐさりとナイフを突き刺した。
老婆は寒さか恐怖かまともに声も出ないようで、絞り出すようにうめき声をあげ手を宙に伸ばしもがくと、間もなくぐったりと床に倒れ込んだ。
私は携帯通信機の電源をつけて口を開いた。誰が今も話を聞いてるか分からないし、うっかり名前を言わないように気をつけながら。
「主様、完了致しました」
「では早く帰ってきなさい。"彼"を反対の廃倉庫へ向かせますから」
「承知しました。処理の方は如何すれば?」
「後ほどやらせますから、そのままで構いません」
承知しました、と返して通信機を切る。ナイフを握るのもだんだん痛いほど指がかじかんできて、手に息を吹きかけて指を暖めた。ナイフと靴の裏の汚れを死体から剥ぎ取った衣服で拭き取る。
ギィ、と年季の入った音を立てる扉を押して階段を上った。
路地裏に出ると、容赦なく粉雪混じりの風が吹き付けてきた。行きの時も日は暮れてたものの、まだ雪は舞ってなかった。随分長いことあの地下室に居たのだと実感する。
もうこんな暗いのに、表通りの方は何故だかいつにも増して騒がしい。アスファルトを薄ら白く染める雪を踏みにじって歩いていると、ふと建物と建物との隙間から細い光が差し込むのに気がついた。
惹かれるようにしてそこへ顔を近付ける。その向こうは表通りで、私は今までついぞ、こんなに立派な町を見たことはないと思った。いや、幼い頃お父さんやお母さんと一緒に、確かに同じ町を見たことがあるはずなのだが、その時よりずっと綺麗に魅力的に感じられた。
なんて眩しくて人間がどっさりいて、騒々しくてやかましいんだろう。マフラーを巻いた学生の男の口からも、リードに繋がれた大犬の鼻からも、ふうふう湯気が立っている。
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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/
作成日時:2023年11月16日 21時