檻と楽園とイヴ ページ16
彼は一瞬目を見開き、くすりと笑うと膝をついてこちらへやってきた。
「な、なんですか」
「いや？君は此処へ来たときから少しずつ変わってるけど……」
今日が一番変わったよ。
ぽん、と頭に暖かみを感じた。太宰さんの手が頭に添えられたからだ。多分昨日までの私ならすぐ払い退けてたんだろうけど、今は不思議と不快感は感じなかった。それどころか、少し嬉しかった。
「ほら、この手だって拒まない。笑っている方がずっといいよ、君は」
ゆっくり、ゆっくりと彼の手が私の頭を撫でる。結った髪が崩れるのもあまり気にならなかった。
太宰さんの目はこれまで見たこともないほど優しくて、まるで兄か父親のようだった。
今までこんな目を向けられたのは、両親や龍彦さんなどの身内以外ならナオミさんと中島さん以来で。
これまで考えないようにしてきたけど、こう改めて考えると探偵社の人達はみんなとても優しくて暖かい人達なんだとすっと受け入れられた。
それこそ、フョードル様の向ける甘い目とはまた別物だった。
「私……ひとりぼっちじゃ、ないですか？」
「それは君が決めることだよ。此処を楽園だと思うなら君は独りじゃない、此処を檻だと思うなら君は今……いや、孤独とも限らないか」
太宰さんの言葉は少し難しかった。
私はきっと昨日まで孤独で、やっと今日独りを抜け出せたんだろうか。それとも
Aちゃん、と太宰さんが暗い調子で呟いた。彼の顔が影になっていて表情はよく見えない。
「何処が楽園だとしても、アダムはいつも傍にいるのさ。
太宰さんの細い長い指に、私の白い髪が絡まる。アダムとイヴ、楽園に住まう二人の男女。それは何を意味するのだろう。
ふと、初めて此処へやって来た日を思い出した。
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作者名：ふわふわありす | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/
作成日時：2023年11月16日 21時
