【文スト】【ドストエフスキー】傀儡人形のイヴ (ページ13)

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被告人イヴページ13

「そんな、私……大したことなんて」

「いえ、貴女はこの子の命の恩人です。本当に、ありがとうございます」

　母親は頭を下げた。それが、ただただ歯痒くて申し訳なかった。

　私が人の命を助けて感謝されるなんて夢にも思わなかったし、何よりこの母親が頭を下げている人間の両手は血濡れている。その事実に罪悪感で喉を締め付けられそうな思いだった。

　これまで人なんて沢山殺してきたのに、なんで今更罪悪感なんか。フョードル様が言う罪(・)と、私が今感じている罪(・)はきっと全く別物だ。

「おねえちゃん、ありがとう」

　女の子は屈託のない笑みで言った。先程まで男に人質にされてたことなんて、まるでなかったことのように。

　その笑い方も、『おねえちゃん』という呼び方も全てが妹のようで、今までろくに記憶に無かった孤児院にいたときを思い出した。

　あれ、そういえば龍彦さんのところにいたときの妹の姿ってどんなだっけ。いや、今はどうでもいいか。

　女の子を見ていると、本当にあの時の妹がやってきたみたいだった。妹は死んでしまったからもう変わることはない、でも私はこんなに変わってしまった。

　笑顔は減り、口数も減り、手を汚し、ひたすら復讐と崇拝に身を捧げる日々。

　それがとても苦しく、虚しく感じられて、きっと私は今上手く笑えていない。

　親子が去り、警察官の一人に軽く事情を告げ(武装探偵社だと言ったら案外すんなり納得された。あの警察官は武装探偵社と関わりがあるのだろうか？)、私達は銀行を出た。

　これは後で聞いた話だけど、あの銀行強盗の男達はかつて辺境の孤児院の子供達だったらしい。孤児院が閉鎖し、身寄りも金も無くなり犯罪を繰り返しながら生きてきたそうだ。

「その異能力とやらで！！俺達のこともどうにかしてくれよ、なぁ！？」

　そういえばあの時男は泣いていた。彼らは犯罪者だから裁かれるべきだけど……死んでもいいなんて思えない。それに彼らより私こそ裁かれるべきだ。