自分に素直でいられない / syp&kn ページ10
「コネシマさんと付き合うくらいなら俺のほうがええんとちゃいますか」
ぼそりと早口で転がり出た言葉に、誰よりも驚いているのは彼自身のようだった。
シッマの家で動画編集を教わるというショッピ君が「コネシマさんだけだと不安なんで」と訴えグルさんが暇な私を派遣したのだったが、結局私はほとんど見ているか雑談をしているだけ、そんな時だった。大先生はなぜモテるのかという話題になり、私が『やっぱり優しいからじゃないの？』と言うと『ほんならお前も大先生と付き合いたいんか』とシッマが聞いてきたのだ。そして私が『うーん、まだシッマのほうがましかな』と答えた直後に、ショッピ君が冒頭の発言をしたのだった。
「あっはっはっは！お前言うやんけ！」
「なんかすげぇムカつくんですけど」
モニタから視線を外して大笑いするシッマに、ショッピ君がいつもより低く答える。少し顔が赤らんでいるのが可愛かった。いつもの調子で絡んだら存外恥ずかしいことを口走ってしまったという状態なのだろう。「そうだね、シッマよりショッピ君のほうが人の心残ってるし」私もシッマにつられて笑うと、ショッピ君一瞬私を見てから気まずげに目をそらしてしまった。
「いやA、こいつも大概アレやぞ」
「でもショッピ君この間私にアイス奢ってくれたんだよ」
「は？いつやそれ」
「アンタが収録の後早抜けした時っすよ」
ショッピ君がモニタを覗き込みながら答えると、シッマはあーあん時な、とだけ頷いてキーボードを弄り始めた。どうでもよさそうな返事にまた笑ってしまう。シッマは常に利益と損失を考えて行動しているので、私がちょっと食べたそうにしていたからといってアイスを奢ってくれたりはしないだろう。食いもんにつられとるやんけとツッコまれたらぐうの音も出ないけれど、ショッピ君良い人だなとあの時は素直に思ったものだ。
「コネシマさん、今のとこ分かりませんでした」
「しゃあないなーよう見とけよ」
もう話題に飽きたのだろう、二人は再び編集作業に集中し始めた。なんだかんだいってシッマは面倒見が良いからやっぱり私は来なくても平気だっただろうなと考えていると、ふとシッマが私のほうを見た。顔は動かさずに視線だけが重なり、その真摯さにおもわず固まる。
「まあ、譲らへんけどな」
いつもの彼からは考えられないくらい低くかすれた声が、ひとり言のようにそう呟いた。なぜか心臓がうるさくなり、聞こえないふりをしてしまった。
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作者名：むむた | 作成日時：2018年7月3日 22時
