射止めてほしい / em ページ8
(軍パロ)
運んできた紅茶とお菓子を私が並べている間、彼は静かにその様子を眺めているようだった。いつも聡明な眼差しでグルさんやトンさんと話し込んでいる顔とはまた違い、何を考えているのかよく分からない穏やかな目元をしている。ちらと視線を向ければ目が合ってしまい、慌ててそらすと「お待たせして申し訳ありません」と私は早口に告げた。
「構いません。グルッペンが忙しいのは承知していますし」
「はあ、エーミールさんは本当にお優しいですね…」
向かいのソファに腰を下ろす。彼のミルクティのような色の髪が夕陽を浴びて綺麗だと思った。
こうして指令本部にやって来ては待たされるというのが彼の日常になっているのが不憫でならないのだが、本人がさして気にしていないようでほっとする。いつも大先生やコネシマ君に「A(ちゃん)エミさんのお相手してきてや」と言われてお茶を運ぶ私の肩身の狭さを和らげてもらっているようで、内心ありがたく思った。絶対あの人達は「女に接待されたほうがまだええやろ」みたいな理由で私に来させているに決まっているのだ。この教授がそんなノリでごまかされるとは思えないけれど。
「ところで、貴女は情報部の所属でしたよね」
「ええ、そうです」
私が頷くと、彼は満足したように目を細めた。柔らかい笑み。それは少しだけ子供っぽいような、たまに敬語を使わずにグルさん達と話している時のような、素が垣間見れる表情だった。彼のこういうギャップに弱い私はついどきりとしてしまい、誤魔化すように窓の外へと顔を目をそむけた。
「Aさん。こうして本部を訪れるのは、今日で終わりになるかもしれません」
「えっ…？」
唐突な言葉につい立ち上がりそうになる。自分で思ったよりもずいぶんと残念そうな声が出てしまい、恥ずかしさに顔が熱くなった。もうここに来ないということはつまり、こうして彼の待ち時間にささやかな会話を交わすこともなくなるということだ。
「…そんな顔をしないでください。実はね、指令本部に来ないかと以前から誘われていたんです。ようやく手続きが済みましたので、今日はご挨拶に来ました」
「エーミールさんが、本部にですか？！」
「ふふ、おそらく情報部にお世話になるでしょう」
いたずらっぽく笑う彼に、私は驚きを隠せなかった。きっと喜びも隠せていないことだろう。これからもっと彼の色々な顔を見ることができるのだと思うと、胸がどうしようもなく高鳴って止めることができなかった。
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作者名：むむた | 作成日時：2018年7月3日 22時
