みにくい宝石 / sha ページ6
この頃シャオロンは、顔出しして収録やイベントに行くことが増えてきた。マスクはつけているから正確には顔出しとは言えないのかもしれないけれど、私にとってはマスクの有無なんて大した問題ではなくて、生身のシャオロンが大勢の注目を浴びているというのが重要なのだ。
ゲーム実況動画では不人気とかゲスいとか言われていても、実写になるとシャオロンにつくコメントは”かわいい””かっこいい”というようなものが増える。明らかに女性のものだと分かるコメントもあった。それを見ている恋人の私としては決して気分は良くないのだが、本人がまんざらでもなさそうにしているので今までこの気持ちを彼に伝えたことはなかった。私が動画を見ていれば嬉しそうに収録の話をしてくれるし、シャオロンが幸せならいいか、と思えるのも事実だった。
だけど、今だけは無理かもしれない。
「…っう、」
後から後からあふれて止まらない涙がフローリングに落ちてゆく。握りしめたスマホを近くのクッションに放り投げると、糸が切れたようにその場に座り込んだ。つむった目の奥が熱い。溶けてしまいそうだと思った。
今日は私の家にシャオロンが来る予定になっていて、掃除や料理など私なりに頑張って準備をしていた。お互い忙しかったから、ゆっくり会えるのは久しぶりだった。しかしつい今しがた電話がかかってきて、申し訳なさそうな声で「ごめん今日行かれないかもしれへん」と彼が言ってきたのだ。どうしたのと尋ねると、動画関係の打ち合わせが急に時間変更になったという。
そこで、思わず私は通話を切ってしまったのだった。
(心配してるかな)
電源を落としたスマホはもちろん鳴らない。心配してくれればまだいいけれど、呆れられてしまったらどうしようかと思うとまた涙が出てきた。こんなことで機嫌を損ねるような重い彼女になるつもりはなかったのに。いつも頑張っている彼を笑って支えて応援してあげられるように、努力してきたつもりだったのに。ちょっと気が緩んで、いろいろな気持ちが重なって、堰が切れたように涙も感情も制御ができなくなってしまった。
「もう、さいていだよっ…わた、し」
早く泣き止んでスマホの電源を入れ、なんでもないから心配しないで！とでもLINEを送りたいと思うのに、頭と体がバラバラになったように自由にならない。磨いたばかりのフローリングに涙をこぼしながら、私はしばらく泣き続けることしかできなかった。
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作者名：むむた | 作成日時：2018年7月3日 22時
