雨と七夕 / gr ページ12
(軍パロ)
窓際の花瓶に挿した小さな笹に、色紙で作った飾りをくくりつける。故郷で見た大きな笹の木とは違ってこじんまりとしているから、五つも飾ればもう枝はいっぱいになってしまった。最後に小さな短冊を下げ、私は目を細めてそれを眺めた。
今日の昼、市場で見つけたと言ってひとらんが笹を買ってきてくれた時は年甲斐もなく喜んでしまった。故郷が同じ彼はこうして何かにつけて私を気遣ってくれる。七夕祭の風習なんて国を出てから一度も懐かしくなったこともないのに、こうして見るととても温かい気持ちになる。ちっぽけな紙に願いを託した、幼い頃を思い出した。
「A、いるか」「はーい、どうぞ」ノックに返事をすると、私がドアを開けるまでもなく彼は部屋に入ってきた。執務室から直接来たのだろう、かっちり着込んだ軍服も固めた髪も仕事中と変わらない。ただ表情だけが穏やかに私に向けられている。
「珍しいね、まっすぐ来たの？」
「ああ。ひとらんらんがな…お前が落ち込んでいるかもしれないと言うから」
「え？ ……ふふっ、そんな、そこまで子どもじゃないのに」
思わず噴き出してしまう。
グルッペンが私に訝しげな視線を寄越したので、これ、と窓際の七夕飾りを指さした。「確か、お前の国の祭りだな」「そう、今日が七夕なの。彦星と織姫星の伝説知ってる？」「聞いたことはあるゾ。一年に一度だけ会いに行かれるんだったか」「うん。でもほら、今日は雨でしょう？雨だと会えないかもしれないから、ひとらんは私が残念がってると思ったんじゃないかな」窓の外を見れば、まだ降りやむ気配のない雨が地表を濡らしている。私は指先で七夕飾りをいじりながらグルッペンに向き直った。彼はなるほど、と笑っている。
「あ、ちょっと。勝手に見ないでくれる？」
「”皆が元気で過ごせますように”か…お前らしい。別に見られて困る願い事でもないじゃないか」
私の短冊を手に取り、グルッペンは少しつまらなそうに言った。
「グルッペンも飾る？短冊ならあるよ」
「俺はいい。必要ないからな」
その目が一瞬強く高圧的な光を宿したのを見て、思わず息をのむ。すぐに柔らかい眼差しに戻ったけれど、総統と呼ばれる彼の本来の姿はあちらであったと思い出して背中がぞくりとした。同時にわけもわからず笑みがこぼれ、ふふふと息を漏らして彼に抱きつく。予期していたように抱き留めてくれた手は強く、温かかった。
「お前の願いも、俺が叶えてやる」
「うん、ありがとね」
.
続く
お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←手の届く場所にいて / os
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：むむた | 作成日時：2018年7月3日 22時
