【wrwrd】サラダボウル【短編】 (ページ11)

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手の届く場所にいて / os ページ11

(軍パロ)

彼は基本的に誰にでも優しい。というよりは平等に接しているように、私からは見えた。飄々としていて感情に流されない、外交や攪乱にはうってつけの人材。もちろん古くからの仲間には色々な顔を見せることは知っているけれど、それでも他の面々に比べれば感情表現は静かなのではないかと思う。
恋人の私にだって、それは例外ではない。

「ねえマンちゃん、どうしたの？」
「…………」

腰に回された腕をそっと撫でながら、私はもう十分以上も困惑し続けていた。立ったまま後ろから抱きしめられる格好。それもプライベートな場所ではなくて資料室という、人目は今のところないけれど誰が来るか分からない状況だった。
オスマンは普段、こんなことはしない。二人きりにならなければスキンシップもしようとしない彼に私のほうが寂しさを感じることがあるくらいなのだ。それなのに今は、私が呼びかけても身じろぎしようとしても黙ったまま離してくれない。

何かあったのかなと、抱きしめてくる腕の力の強さを感じながら考える。密着している背中がずくずくと熱い。
彼がこんなふうになるほどダメージを心に受ける出来事が、きっと私の知らないうちに起きたのだろう。軍の中枢に近い彼にしか分からない苦しみがあるということを改めて認識し、苦しいような切ないような、そしてわずかに愛おしいような気持になる。顔が見たくてまたマンちゃん、と呼び体を反転しようとすると、さらにきつく抱きしめられて呼吸が止まった。

「逃げないで、A」
「ち、ちがうの。顔が見たいだけ…」
「…今は見せたくないめう」
「…わかった。でも、後で話してね」

振り返るのを諦めて力を抜くと、彼を抱きしめられない代わりにお腹に回っている腕に自分の腕を添えた。私の肩にオスマンの頭が乗る。心地よい重みと、彼のやわらかい香りを感じた。耳に吐息がかかって少しくすぐったいものの、動けばまた不安にさせてしまうかもしれないのでじっと我慢した。

「Aは、どこへもいかんといてな」

静かに囁く声に、うんと頷く。できれば私も同じ約束をしてほしかったけれど、今はその時ではないだろうから何も言わなかった。

彼なりに甘えてくれているのだと分かって、どうしようもなく嬉しくなる。彼が傷ついているかもしれない時にそんなことを考えている自分は酷い女なのだろう、けれど、誰にでも優しくて感情を荒立てない彼がこうやって私に弱いところを晒してくれるのが、とても幸せだった。