9話 ページ10
「なんだ、心配するだけ損だったな」
ギルベルトは円に映し出された腕の内部を見据えながら口を尖らせた。素人目には分からないが、どうやら異常はないらしい。アーサーが安堵の溜め息をつけば、ギルベルトはニヤリと笑う。
「おいおい、まだ終わってねぇぞ」
「え？」
異常はないのでは、と言いたそうなアーサーに、ギルベルトは首を横に振った。
「まだ内部構造について話してねぇからな」
ギルベルトは円の中を指差す。アーサーがなんだ、と円を覗き込めば、ギルベルトはわざとらしくその中に指を突っ込んだ。
「はっ！？」
ギルベルトは楽しそうに腕の中を伝う細いパイプを指でなぞる。アーサーは慌てて腕に浮く円を横から覗き込んだ。
たしかに円は浮いている。しかし円の中に突っ込んでいるはずのギルベルトの指はどこにも見当たらなかった。
「びっくりするだろ？ 俺様も仕組みは分かんねぇんだけどよ、これをする度にいつも『この術はこの世の物じゃねぇ』って思うぜ」
てっきり円に映し出されているものだと思っていたアーサーにとって、それは信じ難い光景であった。だがこれは事実である。受け入れるしかない。
「見ろ、アーサー。これがエネルギーパイプ管だ」
腕の中のパイプはどれも細いが、その中でも特に細い管を指差し、ギルベルトは言った。
「こんなに細いんだな」
アーサーが驚きの声をあげれば、ギルベルトは嬉しそうに相槌を打ち説明を続ける。
「やっぱ親父はすげぇよなぁ、エネルギーをオイルじゃなくて食物から摂取させる技術を開発しちまったんだから」
ギルベルトは遠い世界を見るかのように目を細める。よほどその"親父"を尊敬しているのだろう。
「んで、この管がいわゆる神経で、力加減を制御する働きがある……」
ギルベルトは1つ1つ丁寧にアントーニョの腕の中を説明していく。どれもアーサーには初めてで大変興味深く、聞けば聞くほどアントーニョがいかに複雑な造りをしているかを実感したのだった。
「……そういえば、その、1つ気になっていたことがあるんだが、いいか？」
ひととおり説明を終え、ギルベルトがアントーニョの腕の円を消し去ると、アーサーは気まずそうに口を開いた。
「おう、なんだ？ 俺様に何でも聞いていいんだぜ！」
ギルベルトは陽気な笑みを浮かべる。いつのまに術式を唱えたのか、彼の手のひらには既にマナが集まっていた。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
