8話 ページ9
「よし、んじゃあ意識飛ばすぞ」
ギルベルトがそう言い部屋の灯り消す。ランプはフッと輝きを消すが、部屋には青い光が浮き何処となく明るい。不思議に思ったアーサーが頭上を見れば、そこにはチラチラと輝く小さな青い光が部屋を照らしていた。
アーサーはこの灯りが何なのか最初は分からなかったが、この柔らかい光が魔力である"マナ"が圧縮された時に生じる光であるのだと理解するのに時間はかからなかった。
何もかもが初めてで挙動不審なアーサーを見て、ギルベルトは口を開く。
「アーサー、魔術に興味があるならよく見ておけよ」
アーサーはそう言われ、慌てて目線を頭上のマナの光からギルベルトへと戻した。機械修理に魔術を使うなんて思いつきもしなかったので、どのような術式を用いるのかには大変興味がある。
ギルベルトはアントーニョの胸にゆっくりと手を当てた。彼の手は部屋を照らすマナの光と同じように、小さく眩しく、それでいて暖かく輝いている。魔力を手のひらに集中させているのだろうか。
「あぁ、なんかめっちゃ眠いわぁ……」
ギルベルトの手の青い光がアントーニョに触れると、その光がゆっくりとアントーニョの胸に沈んで溶けていくのが分かる。
今まで目を開けていたアントーニョは、マナを注ぎ込まれると、眠るように瞼を閉じた。
「詳しいことは言えねぇが、今俺様は特殊な術を用いてアントーニョの意識を眠らせた。……いや、正確に言えばアントーニョの人間としての機能を終了させたんだ」
「……なるほど？」
いまいち理解できていないが、つまりは動かなくさせたということなのだろう。アーサーが眉をひそめ考え込むと、ギルベルトはアーサーの顔を見て悲しく笑った。
「ま、これは俺の師匠である親父が編み出した術式だから、実際に俺様も完全に仕組みを理解しているわけじゃねぇ」
あまり考え込むなよ、とギルベルトは言い、再びアントーニョの方へと向き直る。
「今回は腕を調べるだけだから大掛かりなことはしねぇが、胴を直すときはもっと複雑な術を唱えるんだ」
アントーニョの擦り傷を指差し、ギルベルトはアーサーにも聞き取れるようゆっくりと術式を唱える。やがて彼は傷を囲うように円を描いた。彼の指先では青いマナが耐えず輝いている。
「……すげぇ」
そして描かれた円を覗き込み、アーサーは感嘆の言葉を漏らした。円の中には、腕の内部が映し出されていたのである。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
