5話 ページ6
「いや、あんな、急に人間にするなんて言われたら誰だって驚くやろ……」
ずいぶん派手に転げ落ちたらしいアントーニョが、擦りむけた肘を抑えながらリビングへと入ってくる。後ろにはロヴィーノとフェリシアーノもいた。
「やっと来たね、早くしないとシチュー冷めちゃうよ」
幸いシチューはまだ湯気を出しており、美味しそうな匂いがリビングを支配している。キッチンにはまだ大きな鍋が置いてあり、まだ大量にお代わりがあるのだろうと推測できた。
テーブルの中央にはファウロンパン(長細くて表面の固いパン)を切ったものが置いてある。貴族の生活時に比べれば全然少ないが、それらには感じられなかった安らぎがそこにはあった。
「って、いや、待て待て待て！ アントーニョ、お前俺とクソ髭の会話をどこから聞こえていやがった！？」
「んー、『さすがのお兄さんも主語がないと〜』のところ辺りからやで」
アントーニョが顎に手を当て考えて出した答えを聞き、アーサーは安堵の溜め息をついた。アーサーが好意を持っているとわかる会話は聞こえていなかったらしい。
「なんなん、変な会話でもしとったんちゃうやろなぁ」
アントーニョがジト目でアーサーを見る。見た目とは裏腹に平気でセクハラしてくるフランシスとの会話だ。変態会話の可能性もある。
「な、誰が楽しくて髭とそんな会話をするんだよ！」
「ねぇ、早く食べようよ」
アーサーとアントーニョには全く興味が無いのか、フェリシアーノはアントーニョに席につくよう急かす。ロヴィーノが冷めた目で2人を見ると、アントーニョは堪忍なぁ、と素直にロヴィの隣の席に座った。
相変わらずロヴィーノとフェリシアーノにデレデレの彼を見て、アーサーは面白くない、と心の中で舌打ちをして彼等を視界に入れないよう目を逸らした。本人は平然を装っているつもりなのだろうが、明らかにドス黒い嫉妬のオーラが彼を包んでいる。
アーサーの機嫌が明らかに悪くなったのを感じて、フランシスは慌てて合掌をした。
「ボナペティ(いただきます)！」
「ボナペティ！」
フランシスに続いて、彼等も合掌しスプーンを手に取る。まだ暖かいシチューが、彼等の空腹を満たしていった。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
