10話 ページ31
「アーサー、大丈夫やった？」
「あぁ？ いきなり主人を姫様抱っこするやつがいるかばか！」
安全を確認し口を開いたアントーニョに、アーサーは力の限り殴りかかる。拳は綺麗に鳩尾に入り、アントーニョは苦しみながら座り込んだ。
「あ、アーサー、そんな嫌やったん……？」
悪気はなかったようで、彼は恐る恐るアーサーを見上げる。上目遣いをする彼に、アーサーはグッと言葉を詰まらせた。
悔しそうなアーサーを見て、アントーニョは嫌ではなかったのだと安堵の表情を見せる。だがそれも束の間、彼はすぐに顔を強ばらせた。
「……アーサー、キクが来る前に提案があるんやけど」
「なんだ？」
アントーニョが言うには、こうだ。
この空間は向かって右にしか通路が続いていない。しかし先程の大廊下の水路は逆の方向へと続いていた。
つまり、キクがアーサー達の所へ回り道をしている今なら、キクに遭遇せずに奥へと進むことが可能であるというのだ。
「……そんで、俺はここでキクを足止めしとく」
アーサーは先に最深部に行き、"朱の水晶"を手に入れ、再びここに戻り、共に脱出する、という作戦らしい。
「だけど、それだとアントーニョが……」
眉を下げてアーサーが言えば、アントーニョは胸を張って笑みを浮かべた。
「大丈夫やって！ それよりもアーサーは自分の心配をした方がええんとちゃう？」
「それもそうだが……」
アントーニョのいないアーサーなど、ただの貴族の坊ちゃんである。念のため短剣を所持してはいたが、扱いには全くと言っていいほど慣れていなかった。
「……不安そうやな。俺が元気出るまじないしたろか？」
「いや、いい。それより"影縫い"について調べる」
鞄から魔術書を取り出すと、アーサーは術についてのページを開いた。当然スラスラとは読めない。アーサーは必死に"影縫い"の文字を探していく。
「…………あった。やっぱ古代魔術か」
アーサーの言葉に、アントーニョは嬉しそうに本を覗き込んだ。
「さすがアーサーやわ。で、どんな術なん？」
「待ってろ、今から翻訳する……」
アーサーが本文に目を通した、その時だった。
「させませんよ！」
「っ、あかん、アーサー、後は計画通りに任せたで！」
キクの声が下かと思えば、アントーニョに頭を押さえ付けられ、そのすぐ上を影の針が掠める。そして、文句を言う暇もなく、アーサーは勢いよく対抗壁の外に放り出されたのだった。
続く (更新停止中)
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
