6話 ページ27
「さあ、質問は終わりですか？」
ぞわり。先程味わった悪寒が、アーサーを再び襲った。キクの影がゆらりと揺れる。だがあれは、どう見てもキクの影ではなかった。影は自在に動き、今にもアーサー達に襲い掛かりそうな勢いだ。
アーサーは身震いをした。あれは、何だ？
「……アーサー、逃げるで！」
「え！？ あ、アントーニョ！？」
いつの間に元に戻っていたのか、彼の瞳は淡い緑になっていた。彼はアーサーの手首を捕み、キクの進んでいた方、つまり最深部へと向かう方へと走り出す。
「待て！ お前何で機械から戻った！？」
金の瞳ではないということは、つまりそういうことである。いくら運動神経が良いとはいえ、普段のアントーニョではキクに勝てやしないだろう。
アーサーの走る速度に合わせながら、アントーニョはアーサーの言葉に舌打ちをした。そして常識を語るかのように口を開く。
「何言うてんねん、あのまま機械でおったらキクに攻撃してまうやろ！」
さも当たり前のように彼はキクを傷付けたくないと思っているのだ。
アーサーは驚いてアントーニョを見た。彼の瞳は真っ直ぐと前を向いている。
けれど彼の言うことはもっともだった。アーサーもいくら機械とはいえキクを攻撃したいとは微塵も思っていない。
それに、キクだって意味もなく"朱の水晶"を守っている訳では無いだろう。何か理由があるはずなのである。
「……ああ、そうだな」
アーサーは頷くとアントーニョの隣に並んで走り出した。ちらりとアントーニョの瞳を見る。ああ、やはり彼の瞳は金より淡い緑の方が良い。感情があってこそ、彼は彼なのだ。
その様子を後ろからキクは立ち止まって見ていた。その顔は嬉しそうでもあり、寂しそうでもあった。
「……馬鹿な人達」
そう言うと彼はランプを澄んだ水道に投げ捨てる。それはパキンッと乾いた音を出し、アーサー達の方へと流れていく。
「あの方は……"朱の水晶"は、私がお守り致します」
暗闇の中、彼の赤くなった瞳だけが浮かび上がる。そして真っ暗となった空間に溶け込むかのように、彼の姿はやがて見えなくなっていった。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
