5話 ページ26
「キク、どうした？」
急に歩くのをやめたキクに、アーサーは声を掛ける。が、すぐにぞわりと背に蛇が這うようや悪寒が彼等を襲った。
「……キ、ク？」
アーサーが再び声を掛ければ、キクはゆっくりと振り向いた。先程までの作られた穏やかな笑みはない。感情のない、それこそ死んだ魚のような目で、彼はアーサーを見据える。そして、言った。
「残念ながら……『朱の水晶』をお渡しすることはできません」
「対象の敵意を確認。攻撃され次第、反撃します」
キクの言葉を半ば遮るように、完全に機械の思考と化したアントーニョが冷たく言い放つ。キラリと鋭い金の瞳は、彼よりも明らかに小柄なキクの姿を捉えていた。
キクは最初こそ驚いたように目を見開いた(ように見えた)が、何かに納得したかのように頷いく。
「ああ、アントーニョさんは機械でしたか」
「……それがどうかしたか？」
キクの敵意を確認、とアントーニョに言われ、アーサーは少しキクと距離をとった。もともと不気味な存在だったのだ。門の術が使え、遺跡内を迷うことなく、さも古代文明があった頃から生きているかのような……。
そこまで考えて、アーサーは気が付いた。もしかすると彼は、アントーニョのような機械なのではないか、と。
「……キクも、機械なのか」
「ご名答です」
口角を上げるキクの声は、よく響く、冷たい刃物のようだった。
しかし、なるほど。それならば話の辻褄が合う。キクは古代文明の頃に作られた機械人間なのだろう。そして彼は王家の側近だったのだ。
そうであれば、彼が術を使えることにも、遺跡を我が家のように扱うことにも、アーサー達を来客だと言ったのにも合点がいく。
「……だが、なぜ最深部に？」
純粋に疑問に思った。来客だ、おもてなしだ、と言っていたが、最深部にいったい何があるというのか。
どのみちキクはもうアーサー達を良くは思っていないだろう。聞きたいことは全て聞いてしまえ、とアーサーは考えていた。
「……それ以上は、お答えできません」
目を細め、キクは冷たい答えを返す。先程までは少しではあったが暖かさのある声であったが、今はもうその声は冷えきっていた。
「最深部に"朱の水晶"があるんだな？」
アーサーの問いに、キクは意味深に口角を上げるだけだ。
アーサーは言葉を続ける。
「キクは俺達をどうするつもりだ？」
だがやはりキクが口を開くことはなかった。もう何を聞いても無駄だろう。アーサーは直感的にそう感じた。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
