3話 ページ24
「それで、おふたりは中に入りたいんですよね？」
アーサーに歩み寄るキクは、意味ありげに彼に尋ねた。アーサーが慌てて頷けば、キクはにっこりと微笑む。
アーサーはこの笑みを貴族生活において何度も見たことがあった。表情の読み取れない、うわべだけの作り笑いだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
「え？ 行くって、どこに……」
扉へと向かうキクを視線で追うアントーニョは、ぱちくりと目を開いている。何か裏があるのでは、と警戒するアーサーを他所に、キクは扉に手を当てた。
「……久しぶりの来客ですから。おもてなし致しますよ」
「待て、お前さっきから何言って……っ！？」
とうとう耐えかねたアーサーが1歩を踏み出す。それと同時に、ガコン、と何かが外れるような音がして、開かずの扉はゆっくりと奥に開いていった。
「……」
満更でもなさそうなキクに、アーサーとアントーニョは顔を見合わせた。先程の測定結果から、扉を開けられるのは王族かその側近だけであると分かったばかりである。しかもその扉に描かれていたのは、絵ではなく、アーサーの持つ古代魔術書原本の文字……つまり古代文字であったのだ。アーサーが読み間違えているとは到底思えない。
なにより古代文明はとっくの昔に滅びたのだ。王家に伝わる術などもう誰も知らないに違いない。
「どうされました？」
固まる2人に首を傾げるキク。見た目は10代後半といったところか。彼はいったい何者なのだろう。
「あ、いや、キクって何歳なのかなぁ、と」
扉については触れず、やんわりと彼の正体を尋ねる。その質問にキクは少し驚いた顔をしたが、すぐに戸惑った笑みを見せた。
「そうですねぇ、見た目よりずっと年寄り、とだけ言っておきましょうかね」
さぁ行きますよ、とキクは遺跡内に足を踏み入れる。そして扉の側に立ち、どうぞと中に入るよう促すその仕草は、まるで来客を家に招くかのようだった。
「アーサー、どないする？」
さすがのアントーニョも不審に思ったようで、アーサーにこっそりと耳打ちをした。
「どうって、行くしかねぇだろ」
この機会を逃せばもう2度とこの遺跡内に入ることはできなくなるだろう。目的である「朱の水晶」を手に入れるまで帰るつもりはない。
「ふぅん、まあ俺はアーサーに付いてくだけやしな」
そう言いつつもアントーニョは楽しそうである。そんな彼を見てアーサーも満足げに微笑むと、2人も遺跡の中へと足を踏み入れたのだった。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
