2話 ページ23
「っはぁぁぁ終わったぁぁ」
無機質な金の瞳がゆっくりと柔らかい緑へと変わると、アントーニョはがっくりと項垂れた。嫌だ嫌だと言うアントーニョだが、「アーサーのためなら」と協力するのはいつものことである。
「で、分かったんやろな？ これで入れんかったら殴るでほんま」
もともと誰かに尽くす、という性格をしていない彼にとって、アントーニョに搭載された機能はどれも擽ったいものらしい。
「どうやらこの門は来客時や王やその親族などが使用する時に開かれる特殊なもので、一般が使用する扉は別にあるようだ」
さらに、扉には王家とその側近にしか使えない術が掛けられており、鍵などは存在しないことが分かった。
「んん？ てことは他の入口を探せばええってこと？」
「まあ、そうなるが……」
アントーニョの問いにアーサーは頷くが、目の前にそびえ立つ門を見上げて溜め息をついた。
困ったことに、この遺跡は地下に続いているようだ。開かずの扉と中に繋がっているであろう階段を囲うかのように壁があるだけで、他に出入口らしき場所は見つかりそうにない。
「なあ、どうすんの？」
アントーニョがぺちぺちと壁を叩きながらアーサーに尋ねた。
「どうする、と言われてもなぁ」
アーサーが唸る。やれやれとアントーニョが肩を落とした。その時だった。
「……おや、どちら様ですか？」
アーサーの後ろから低い男性の声がする。上品な印象を受けるその声に、アーサーもアントーニョも驚いて振り向いた。
「あっ、ああ、悪い。この遺跡に入りたくてな」
慌ててアーサーが返事をすれば、姿を現した青年は納得した顔をした。
何歳か見分けのつかない童顔に、天使の輪が映えるサラサラの黒髪。右耳には機械仕掛けの蝶のイヤリングが付いており、異質な雰囲気を漂わせている。服はどことなく東の国の民族衣装を思い出させるもので、やけに質素であった。
いきなり声を掛けて来た彼を不思議に思ったのか、アントーニョは首を傾げた。その様子を見た青年は、小さく微笑んで流れるようにお辞儀をする。
「ああ、これは失礼。私はキクと申します」
「俺はアーサーだ。で、こいつはアントーニョ」
こいつ、とアーサーに指さされ、アントーニョはムッと眉を寄せた。
「自己紹介くらい自分でできるわアホ」
「ふふ、仲が良いんですね」
キクはまるで孫を見るかのように微笑む。そこには長年生きてきたかのような不可思議な面影があった。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
