2話 ページ3
アントーニョの返事も聞かず、アーサーは掴んでいたパイプを離し足に力を込める。
どうやら本気で飛び降りるらしいアーサーにアントーニョはギョッとするが、すぐに慌ててアーサーの足元へと駆け寄った。
アントーニョは「世話の焼ける主人やな」と内心で舌打ちをして、先程までの穏やかな顔から一変し真剣な顔付きになる。瞳の柔らかい緑はキラリと鋭い金へと変わった。
何も言わず嬉々とした顔で飛び降りるアーサーを瞳に捉え、アントーニョは小さく呟く。
「……落下地点把握。衝撃を最低限に抑えます」
次の瞬間、アントーニョはアーサーの落下してくる真下へと移動し、それに合わせて自身の体を下げて彼を腕の中に収めた。アーサーに与える衝撃を抑えたのだ。
「処理終了。主人の無事を確認」
アントーニョは無機質な金の瞳をアーサーに向けると、頭から足までくまなく見ていく。
「検査終了。異常はありませんでした」
「お疲れサマ、アントーニョ」
アントーニョの鋭い金の瞳が和らぎ緑になるのを確認したアーサーは、アントーニョから離れ満足そうな笑みを浮かべた。
アントーニョの瞳が完全に元に戻ると、彼の表情はだんだんと人間味のあるものへとなる。
「っあぁぁあ、俺この主人守る機能めっちゃ嫌いやのにぃい」
アントーニョはよほど先程までの状態が嫌いなのか、その場にうずくまり頭を抱えた。
「仕方ねぇだろ、俺が主人なんだから」
「なりたくてお前を主人にしたんちゃうもん……」
諦めろ、というアーサーに、アントーニョは心底嫌そうな顔をする。喧嘩するほど仲が良いとはこの事なのだろうか。2人とも遠慮がないくせにお互い絶交しようとはしない。
「……なぁ、アーサー」
不意にアントーニョが口を開けば、アーサーは「何だ？」と首を傾げた。
「そろそろ帰ろか。どうせあのネジ届かんやろ」
アーサーが背伸びをして締めようとしていたネジを指さしアントーニョが言えば、アーサーは見られていたのか、という羞恥心でブワッと体が熱くなるのを感じた。
「なっ、なんだよ！ 背が高いからって馬鹿にしやがって！」
「別に頼ってくれてもええんやで！」
「誰が頼るかばかぁ！」
まだ昼前の太陽の下、アーサーとアントーニョは家の扉をくぐる。料理人であるフランシスの作るシチューの匂いが、彼等の空腹を促進させていた。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
