7話 ページ20
アントーニョが人混みに紛れ完全に見えなくなると、アーサーは再びペンダントに目を向けた。アントーニョの見ていたペンダントはどれだったか、と目を細める。
「……あのお兄さんが見てたのは、その緑のペンダントだと思うヨ!」
不意にカウンターから元気な声が聞こえた。凛とした、少し訛りのある女性の声。アーサーが目を向ければ、声の主はこの店の店長らしき女性であった。
「ネェ、あの人はお兄さんの恋人なノ?」
「こっ、こここ恋人!? ばっかそんなんじゃねぇよ!」
楽しそうに身を乗り出して尋ねる店長に、アーサーは顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振り否定する。店長の癖のある明るい茶の長髪が揺れた。
「フーン、片思い?」
によによという効果音が付きそうな笑みを浮かべ、店長は首を傾ける。頭につけている梅の花がより一層彼女の無邪気さを際立たせているようであった。
「……あぁ、まあ」
曖昧な返事とともにアーサーは俯く。いくらアントーニョと主従関係にあるとはいえ、それは恋人と呼べるものではない。認めたくはないが、アントーニョは貴族であるアーサーを守る為に主従関係を結んでいるのであって、彼が喜んで結んだわけでは無いのである。
「お兄さんも大変だネー、今ならそのペンダント半額にしてあげるヨ!」
「えっ、いいのか?」
この高価なペンダントを半額とは。アーサーは目を開いて店長を見る。
「イイヨイイヨ、そのかわり絶対に恋を実らせてネ!」
可愛くウィンクをして店長は後ろの棚から手のひらに収まる程度の箱を取り出した。ふわふわとスカートが揺れる。彼女は東の国出身なのだろうか。東の国に住む民族の衣装を思い出しながら、アーサーは彼女が小さく上品な箱を丁寧にラッピングしていくのを眺めていた。
「この緑の宝石はネ、東国の特産品なんだヨ」
綺麗にラッピングされた箱をアーサーに渡し、上機嫌に店長は口を開いた。
「"翡翠"って言うんだヨ。御守りになるネ!」
店長はふふっと軽く笑うと、アーサーから渡された金貨を数えていく。釣りはないはずだ。アーサーはぼんやりとした頭でプレゼントを手に取る。アントーニョは喜んでくれるだろうか。
「……はい、ちょうど貰ったヨ! お兄さん頑張ってネ!」
店長がからかうように手を振った。アーサーはマリンキャップを深くかぶった。アントーニョの喜ぶ姿を想像するだけで、自然と顔がニヤけてしまう。
「楽しみだなぁ」
アーサーは駆け足で飛行船乗り場へと向かった。
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作者名:ほたてろいど | 作成日時:2016年12月3日 22時