5話 ページ18
ウエストバッグに本をしまいながら、アーサーは階段を降りて2階のリビングへと向かう。今の彼は昨日までの庶民的な雰囲気の服とは違い、冒険者のような身軽かつ着込んだ服装をしていた。
「おい、アントーニョいるか?」
彼の元気な返事を期待しながらリビングの扉を開ける。しかしそこにはフランシスしかいなかった。この時間帯、ロヴィーノとフェリシアーノはシエスタをしている。だがアントーニョは、いつもならリビングでトマトを頬張っているはずなのだ。
「チッ、フランシスか。おいアントーニョはどこだ?」
「……アントーニョなら商店街に行くって言ってたよ」
フランシスはテーブルに腰掛けて、新しいレシピでも考えているのか、顎をつき唸っている。アーサーの態度にも言い返さないとなると、相当行き詰まっているようだ。さすがにそれを邪魔してまで喧嘩しようとは思わない。
「商店街か、ありがとう」
フランシスの言い方からして、おつかいではないらしい。何か欲しいものでもあったのだろう。
アーサーは素直にくるりと体を翻し扉に手をかける。しかしすぐにフランシスが口を開き彼を呼び止めた。
「ねぇ坊ちゃん、長旅でもするの?」
さすがフランシスというべきか。アーサーのいつもと違う服装をじっと見据えながら、彼は眉をひそめる。
「ああ、1週間くらいで帰ってくる」
「あらそう、ちゃんとアントーニョにも了承をとりなさいよ」
いつもは喧嘩ばかりするフランシスだが、彼はアーサーの行動にまで口出ししようとは思っていない。なにより貴族生活から逃げ出してきたアーサーは、誰かに縛られるのが嫌いだったのだ。
それを察しているのか、それきりフランシスは何も言わずにまた手元のレシピへと視線を戻す。口に出せば面倒くさいことになるから言わないが、アーサーはつくづく良い友人を持ったと思う。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
アーサーは今度こそ扉に手を掛けた。アントーニョの気分次第ではまたすぐに帰ってくることになるかもしれないが、彼は常に旅道具を持ち合わせている。見つけ次第すぐにでも出掛けることになるだろう。
フランシスのためにも、なるべく傷なく早めに収穫を得たいところだとアーサーは微笑みながら思うのであった。
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作者名:ほたてろいど | 作成日時:2016年12月3日 22時