4話 ページ17
「ああもちろん聞いていたぞ。門が開かねぇんだろ？」
アーサーがジャケットを羽織りながらすました顔で答える。納得がいかないのかエディーニョの顔は険しくなるが、アーサーは気にせずマリンキャップと古びた金属製のゴーグルを頭に掛けた。
「……なんで行くん？ 無駄になるだけやで」
エディーニョは低い声で小さくアーサーに問い掛けた。本当にアントーニョにそっくりなやつだ、とアーサーは思う。だが、彼等には決定的な違いがある。
エディーニョの問いに、アーサーはフッと鼻で笑った。彼はエディーニョであってアントーニョではない。
「好きな人との約束のため、だ」
バタン。アーサーが部屋を出ていく。エディーニョは驚いたようにしばらく扉を見つめていたが、やがて彼は呆れたように溜め息をつくと、開けっ放しの窓に飛び乗った。垂れ目の細い目をさらに細くして、楽しそうに空を見上げる。
「ほんなら次は、北の遺跡にでも行ってこよかなぁ」
どうやらギルベルトの家に戻る気はないらしい。楽しみや、と彼は微笑むと足に力を入れ、数メートル上の隣の家の屋根に飛び乗った。その人間離れした動きは、彼がやはり機械であることを物語っている。
エディーニョは笑みを浮かべたまま目を細めた。アーサーからは約束の内容を教えてはもらえなかったが、実はつい先程フランシスに教えて貰っていた。人間にさせる、とはまた滑稽な願い事だ。
「……アントーニョは恵まれとんなぁ」
感情の読み取れぬ笑みを浮かべ、他人事のように呟く。どこかの誰かとは大違いや、とエディーニョは考えてから、彼はハッとして慌てて首を振った。
機械として生まれた以上、人と関わりすぎては不必要な感情を味わうことになってしまう。それはアントーニョも分かっているはずだ。機械は人になれやしない。
でも、もし、仮にアーサーがアントーニョを人間にしてしまったら。
「俺は、また独りになってまう……」
だがアーサーなら実際に叶えてしまうような気がした。そして彼はアントーニョと共にどこか違う所で過ごし始めるだろう。
アーサーが嫌いなのではない。むしろ彼の願いは叶えてあげたかった。
だが、エディーニョは機械である孤独をよく知っていた。アントーニョがいたことで、その孤独はたしかに和らいでいたのだ。
彼は意味もなく空を見た。相変わらず空はくすんでいる。それは今のエディーニョの気持ちを表しているかのようであった。彼は悲しく微笑んだ。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
