いいんですか？ Ren.N (ページ5)

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『でも、もう少しの辛抱やな。』

永瀬さんの呆れた声が急にしおらしくなって、反射的に永瀬さんの方に顔を向ける。

幸運にも永瀬さんはまだ窓の外を眺めていて、私と目が合うことはない。
高い鼻、くっきりした二重、艷めく髪。そのひとつひとつに目を奪われる。

いつもより速く心臓が脈打つ。それはきっと男性に恐怖を感じているから。
だってそれ以外理由が見つからない。

『ここ、俺が出た大学の付属病院なんよ。
一定期間ここで働いたら奨学金が返済不要になんねん。
だからここで働いてんけど、今年までやから。
終わったら大阪戻るし、もうすぐいなくなるで。』

「そのために、大阪から出て来たんですか？」

私の質問に反応して、永瀬さんが顔を向ける。それに連動して私は顔を背ける。

ああ、今、私すごく失礼なことした。

頭では分かっているけど、やっぱりどうしても目は合わせられない。

顔の綺麗な人に見つめられると石になりそう。永瀬さんはメデューサか？

『そのためっていうか、ただ都会に憧れてただけやけどな』

「大阪だって十分都会じゃないですか。」

『東京の方が輝いて見えたんやろ。まあ、そんなことなかったけどなあ。』

遠くを見つめるメデューサ、もとい永瀬さんの横顔、何だかすごく寂しそう。

『俺はもうここから出て行くこと決まってるから、Aさんの担当もすぐ変わると思うで？
でもまあ、Aさんもそれまでに退院できるとええな。』

早く退院したいやろ？と、
そう言って、不意に向けられた悪戯っ子の様な笑顔に、心臓が飛び跳ねる。

今日はなんだか調子が悪い。今度、心臓も診てもらおうかな。