いいんですか？ Ren.N (ページ37)

今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:29,542 hit

37 ページ37

あの日、私は、ほんのりと明るくなる空を眺めながら、ぼんやりと考えた。

‘ どうして彼はこんなに酷いことをするのだろう ’

ぼうっとした頭が出したのは、

‘ 私の存在が気に食わないから ’

あまりにも単純で残酷な答えだった。

彼は私の全てだった。

手を上げられても暴言を吐かれても、必死に愛されようとしてきたのに。それなのに …。

もうどうでもよかった。

裸足で家を飛び出すと、分厚く薄黒い雲から雪が降ってきた。

地面から伝わる冷たさが、足の感覚を蝕んでゆく。
もう冬なんだ。私が家に閉じこもっているうちにも季節は巡っていた。

すれ違う人たちが私の顔を見て嘲笑している。

フラフラの脚で灰色のビルの階段を駆け上がった。

生まれ変わったら綺麗な顔に。来世では美人に。もう二度とこんな惨めな思いをしませんように。それだけしか頭になかった。

ビルの屋上の薄汚れたフェンスを乗り越えると、爪先を冷たい風が掠める。

一歩踏み出せば、苦しみから開放される。暴力への恐怖、自分自身に対する絶望から。

つらかったなあ。

短い人生だったけど、いいんだこれで。

ビルの上から、醜い身体とともに暗く閉ざされた未来を投げ捨てること。それは私にとって、とても魅力的なことだった。