いいんですか？ Ren.N (ページ34)

今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:29,584 hit

34 ページ34

『これでほんとにバイバイやなあ。』

私のベッドの隣にある空きベッド。そこに2人、肩を並べ脚を垂らして腰掛ける。

開け放たれた窓からは春の暖かな風が入り込み、カーテンを揺らしている。

ふと、隣に視線を移すと永瀬さんは寂しそうな目で窓の外を眺めていた。

確か初めて会ったあの日も、永瀬さんは故郷を懐かしんで、今と同じ目をしていた気がする。

「本当に大阪帰っちゃうんですね。」

『なんや、寂しいんか？担当変わるから嬉しいんとちゃう？次は女の人やとええなあ。』

「 …永瀬さんでも別にいいですけど。」

『お前、それガチで言ってるん！？俺嬉しくて舞い上がりそうやわあ！

最初の頃、毎日毎日 ‘ 担当ナース変えろ ’って騒いどったのになあ。
嫌われてもうてホンマ大変やったわあ。どうやったら距離縮まるか考えても分からんくて、試行錯誤やったからウザがられてもうたし。

でも、俺らちょっとは仲良くなれたよな？』

永瀬さんの馴れ馴れしい態度も、つまらない冗談も、全部全部、私に心を開いてもらうためのものだったんだ。こんな私のために…。

永瀬さんはいつも私に寄り添ってくれていたのに、私は永瀬さんを傷つけてばかりだ。避けて、遠ざけて、拒んでいた。

それでも永瀬さんはいつも真っ直ぐ私と向き合ってくれた。それなのに、それなのに、私は、

『あ、申し訳ないとか、思わんといてな？俺が一方的にガンガン絡んでただけやし。
それに一緒におったのは１ヶ月だけやったけど、お前に振り回されて、今まで1番楽しい 1ヶ月やったしな！』

永瀬さんには何でもお見通しだ。

『あと、これだけは約束してな。』

視線が絡まる。いつになく真剣な永瀬さんの目。

『ひとりで抱え込まないで、しんどくなる前に誰かに相談すること。誰も迷惑だなんて思わんから。頼られんのは結構嬉しいもんなんやで？』

永瀬さんが優しく微笑む。私だけに向けられた笑顔。もう明日から見れなくなってしまう。

私は永瀬さんに何も恩返しができていない。このまま離れ離れなんて、悔やんでも悔やみきれない。