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あの場から逃げ出しても、今日初めてここに来た私に 開放病棟の造りが分かるはずもないのだ。
逃げ込んだのは結局、今日から私の住処となる四人部屋。
ついさっき、初めて永瀬さんと会った時に、ここから逃げ出したから、‘ 戻ってきた ’という方が正しいのかもしれないけど。
鍵を回すとすんなりと開いてしまった窓から、ぼんやりと外を眺める。
昨日までは窓のない部屋に閉じ込められてたなあ。
久々に眺める青空。悠々と流れる雲。世界が開けている。
世界はこんなにも広いのに私はどうしてまだ過去に縛られているんだろう… 。どうして、どうして。
『 もォ〜、いい加減にせえよ、ホンマ。
怒られんの俺なんやから … 』
病室の入口から聞こえてくる永瀬さんの声。まだ聞き慣れない関西弁。
早々に見つかった…。また説教か…。
『 おい!やめ!早まるな!』
「は、はい?」
氷嚢を投げ捨て、後ろからすっ飛んできた永瀬さんが、私の肩を掴む。
あのォ、痛いんですけど!早まってませんけど!?
『 ほら、空見てみろ!こんなに晴れてたら、悩みなんてどうでもよおなってくるな!な?』
何だか焦ってる永瀬さん。もしかして私、 飛び降りようとしてると思われたのかなあ…。二度目とはいえ、いきなり消えたら、そりゃ焦るよな。
尚も、後ろからクサいポエムのような励ましの言葉を投げかける、大分 早とちりな永瀬さん。
また逃げ出すと思われているのか、後ろからガッチリと肩を掴まれているから、あのバランスの取れすぎた顔と自分の醜い顔を突き合わせなくて済む。
永瀬さんの言葉がすんなり心に染み込んでくる。
『 落ち着いたか?』
永瀬さんは関西弁で、声が大きくて怖いけど、意外と抜けてて、何だかんだ優しい人なのかもしれない。
それでもやはり、 視界の隅から現れた凡人離れした顔からは、目を背けてしまった。
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作者名:白 | 作成日時:2019年4月20日 12時