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押し開けた扉から、チリリンと軽やかな音が鳴る。
一歩踏み出すとぎしりと床が鳴り、奥から足音が近づいてくる。
カウンターの上に積み上げられた本の横からひょこりと顔を出した翔さんが、俺の姿を見つけると微笑む。

「あ!おかえり、和く………和」

ハッとして慌てて言い直す翔さんが手を合わせて小さく“ごめんね”とジェスチャーで伝えてくる。
その姿が可愛らしくて。
込み上げてくる笑いをかみ殺す。

「ただいま、翔さん」

いつものようにそう返しながら、翔さんの元へと歩み寄っていく。

「今日は少し遅かったね?」
「そう、ちょっと先生に捕まっちゃって」

放課後に職員室に呼び出されたって言っても、悪いことした訳ではなく。

「何かあったの?」
「ううん、進路のことで」

来年に迫った進路について。
進学とか就職とかどうするの?ってそんな会話。
進路なんて特に決まってない身としてはひどく鬱陶しいもので、いち早く翔さんの元へと行きたい気持ちでいっぱいで、先生の話なんて大体流してたんだけど。

「そっかあ…和ももうそんな歳なんだなあ…」

さっきみたいに、お店に来たときとか、咄嗟に俺の名前を呼ぶときとかは勢いで今まで通りに呼ばれることもあるけれど、言葉の中で使う分にはすっかり慣れてきているこの呼び名が心地いい。

「正確には来年だけどね?」
「…1年なんて、割とあっという間に過ぎちゃうんだよ?」

少し間が空いたかと思えば、妙に真面目な声で俺の目も見ずに言うものだから、そうでもないよ?なんて軽口叩けなくて。

「…そうだね」

肯定することしか出来なかった。

“1年”という言葉に、翔さんはどんな思いを巡らせたのだろう。

「来年になったら、和はもっと素敵になっちゃうのかな?楽しみだね」

話題を変えるように唐突に口にされたその言葉は、俺の心臓にクリティカルヒットするのに充分すぎるもので。

ほんっとにこの人は…

「タチが悪い…」
「ん?」

思わず小さく声に出てしまうが、翔さんには聞き取れなかったみたいで、何か言った?とばかりに不思議そうな顔で俺を見る。
くりくりとした愛らしい瞳に見つめられながら、なんでもないと誤魔化し笑う。

「そういえば、今日も店長居ないんだね」

ばくばくと五月蝿く脈打つ心臓を落ち着かせるために話題を変える。

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作者名:ガナッシュ | 作成日時:2018年1月21日 1時

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