触れて、感じて (ページ26)

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「和くん、ごめんね。お店ありがとう」

足を踏み出す度に古びた床が音を立て、その音に振り返る和くんへと声をかけた。

「全然、まだ休んでても良いんだよ？」

目を細め、静かに微笑みながら優しい声音で気遣ってくれる和くんに、心底愛おしいと思う気持ちが溢れる。

「大丈夫、和くんのおかげでしっかり休めたから」

ガッツポーズをするように両手を広げつつ、彼の元へと歩み寄りながら、再びありがとうと感謝の言葉。

…今の俺は、上手く笑えていただろうか。

にやにやしていたら嫌だな…なんて思いながら、カウンターの上に積まれた本にほんのりと被った埃を、さらりと指で払った。

少し向こうにあるハタキでやれば良いのに、そうしなかったのは。

照れ隠し…なんだろうな、きっと。

「そっか、なら良かった」

ふふっと笑って、腕に抱えていた本を棚へと戻す姿を、カウンター内の椅子に腰をかけながら、ぼんやりと眺めた。

そして、さっき見た夢がふと頭を過ぎった。

ズキッと古傷が痛むような感覚に、思わず目を閉じる。

はは…笑っちゃうね。

この幸せな毎日を失いたくないと願ったあの日から、全てが終わってしまった。

あの時の決め事も、押し殺そうとした和くんへの気持ちも。

一生消えることのないキズを、埋めることのできない穴を、俺は彼に求めてしまった。

誰でも良かったんでしょ？埋めてくれるなら。
独りが嫌だからって、なんて酷い大人なの？

1人になれば、誰かのそんな言葉が俺を苦しめた。
見えない幻に、心が蝕まれた。

ほんと、学習しないな…。

あの時に穿たれた傷は、今でもやっぱり怖くて、苦しくて。

でも、そんな過去から救い出してくれたのは、紛れもなく彼だから。

誰でも良いわけない。

和くんだから…そう思えたんだ。

だからこそ、あの時の和くんからの言葉を、気持ちを、無下にすることは俺には出来なかった。

ずっと欲しかった言葉を。
ずっと欲しかった誰かからの愛を。

面と向かって好きな人から伝えられて、嬉しくない人間なんていない。

少なくとも俺はそうだった。

だから、選んでしまった。
彼の言う、彼との未来を。

その選択に、満更でもないと思ってしまった自分を、嘲笑う声が聞こえた。

間違った選択をしてしまったと、本気で後悔した日もあった。