触れて、感じて (ページ24)

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夢を見た。

昔の俺の夢を。

喪服に身を包んだ俺が正座して、柩を見つめたまま静かに、静かに泣いていた。
泣き腫らした赤い目が、どれだけの間涙を流していたかをものがたり、啜り上げる度にごくりと鳴る喉が、もう嗚咽することすら疲れきっていた。

周りの大人はそんな俺を遠くから眺めてひそひそと会話していた。
時折耳に届く会話の内容は、“誰があの子を引き取るのか”とか“なんて可哀想な子なのかしら”とか、あまりにも残酷なものだと、幼いながらに思っていた。

嗚呼…そうだ。

お母さんもお父さんも、本当にもう

いないんだ。

理解しきれない霞のかかった頭の中で、何度もリフレインする言葉の重さに吐き気を催す。

何時間こうしていても、実感なんて湧くはずもなく。
今によく寝たと、あの寝床からむくりと起き上がってくれるのではないかと何度考えたことだろうか。

でもそんなことは起きない。

どうして、どうして

僕も一緒につれていってくれなかったの……。

「翔くん」

突如として投げかけられた俺の名前が、温かに耳に届く。
わざわざしゃがみこみ、俺の目線に合わせてくれたその男性は、柔らかく微笑み俺の頭を撫でてくれた。

「初めまして、翔くん。私たちのお家で一緒に暮らさないかい？」

何事かと思った。

このおじさんは誰で、隣に佇むおばさんは誰で、なんで見ず知らずの子供を引き取ってくれようとしていているのか。

ひそひそと会話していた周りの大人達もざわつき始め、一気に視線が俺たちに集まる。

正直困惑した。
疲れきった頭の中でたくさんの思いが渦巻いた。
それでも、周りの大人の態度に心底傷つき、絶望していた俺の身には有り余るほどの言葉で。
気がつけばポロポロと涙が零れ、止まらなかった。
そうすれば、そのおじさんは優しく抱きしめてくれて、ずっと頭や背中を撫でてくれた。

「おじさんとおばさんと、一緒に暮らそう」

「…うん！」

おじさんに縋り付き泣きじゃくりながら、返事をした。
細められた目に皺が浮かび、朗らかに笑うおじさんがおばさんを呼び、おばさんも俺の頭を撫でながら微笑んだ。

今思えば、素性の分からない大人の言葉にホイホイついて行くなんて馬鹿みたいに思えるけれど、この2人が俺を救ってくれた。

心の底から、良かったって言える。

そしてこの時、心に決めたんだ。

絶対に迷惑はかけないって。
我儘は言わないって。

人を、心の支えにしてはいけないって。