貴金属の花束 :shp(リク) ページ5
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差し込む陽光は朝の澄んだ風を含んで柔らかく、誰もいない事務所は静寂である。
誰よりも早く職場へやってきたショッピは仕事前の一服をすべく鞄を自分の席へと置き、煙草とライターを取り出して喫煙所へ足を向けようとした。
「…っ」
踏み出しかけた足が急ブレーキをかけたようにギッと止まる。
視線が一つのデスクに釘付けになる。
仄かに熱情を寄せる先輩の机の上に置かれたそれを目にして、ショッピは煙草の箱をぐしゃりと握りしめた。
朝日差し込む事務机の上、書類などは片づけられた小綺麗なAのデスク。
まるで添え物のように置かれた、みずみずしい黒百合1輪。
なんだ、これ。なんで。
反射的にひったくるように奪い上げ、ついで遅れて湧き上がるのはこれを置いた人物への憎悪と怒りと、そして不釣り合いな嫉妬。
黒百合なんて特徴的な花が表す意味などたったひとつだ。
昨晩帰るとき事務所に残っていたのは数人で、こんな事をする人間なんて限られている訳で。
瞬間的に導き出された一人の人間に舌打ちをして、思わずショッピの口から漏れたのは。
「…身の程を知れよ。」
そんな、冷え切った声だった。
「おはよショッピ。 今日も一番乗り?」
「おはようございますA先輩」
始業前、何も知らないAへとろけるように緩い笑みを浮かべて挨拶を交わす。
「あ、そうだショッピ、今日ご飯行かない?」
Aの机に残る花からこぼれたらしい水滴を袖口で雑に拭っていれば柔らかな声でそう問われ、ショッピは思わず喜びから数度領いた。
「え、嬉しいです。終業後少し遅れるんで後から飯屋の前で合流する形でどうですか?」
「あっ、忙しいなら日を改めて…」
「いや、俺が先輩とご飯食べたいんす。是非ご一緒させてください」
「そう?よかった。じゃあどこ食べに行こうかなぁ」
チャンスを逃してなるものかと食い気味に続ければ、Aは疑いのないまっすぐな瞳で夕食の思案を始めた。
ああ、いとおしい。
始業の合図が鳴っても、ショッピの視線はしばしAに釘付けだった。
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うぃりあむ(プロフ) - ちーずたわーさん» ちーずたわーさん、お優しいコメントありがとうございます、ひとまず本作が終わるまではマイペースに書くことがあると思いますのでどうぞよろしくお願いします:-) (2023年1月3日 14時) (レス) id: 8d75ea0750 (このIDを非表示/違反報告)
ちーずたわー - お久しぶりに更新されていて綺麗な二度見してしまいましたwこのシリーズと作者様の書く文一つ一つが綺麗でとても大好きなのでこれからも息抜き大事に更新頑張ってください! (2023年1月3日 2時) (レス) id: c69628b5a1 (このIDを非表示/違反報告)
うぃりあむ(プロフ) - 推しを推せるよどこまでもさん» 推しを推せるよどこまでもさん、嬉しいコメントありがとうございます、今後もマイペースに書くことがあると思うので何卒よろしくお願いします:-) (2022年4月2日 2時) (レス) id: 0edd80987e (このIDを非表示/違反報告)
推しを推せるよどこまでも(プロフ) - !?!?更新ありがとうございます!!!うぃりあむさんの作品どれも素晴らしいものばかりなのでとっても嬉しいです! (2022年4月1日 17時) (レス) id: 4fbe14bf7b (このIDを非表示/違反報告)
うぃりあむ(プロフ) - 匿名さん» 匿名様、嬉しいコメントやお気にかけていただきありがとうございます!SNSは別活動に使用しておりご期待に添えない可能性が高いため掲載を控えさせて頂いております、申し訳ありません……!今後も宜しくお願い致します *。+ (2022年3月14日 2時) (レス) id: 6010886135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うぃりあむ | 作成日時:2020年2月2日 21時