√35、欲しい言葉 ページ1
「じゃあ、これ持ってて」
僕へステッキのようなものを手渡すと、そこへ呪文を唱え始める。
「では、ステッキを振ってみてください」
「！」
言われた通りにステッキを軽く降ると、ぽぽんと、花が現れた。
オレンジ色をした、ガーベラの花だった。
ステッキの先から花束が出現したというべきか。どちらにしても一瞬だったので、タネが分からなかった。
造花ではなく、生花を使用しているようだ。
「……綺麗だね」
「一番好きな花なんだ。「希望」っていう花言葉があってね。野坂くんはオレンジも似合うと思ったから。それプレゼントするよ」
「……これ、もしかして僕の為にわざわざ？」
「考えてたんだ。どうやったら普段の感謝を伝えられるか。だからこれは私の気持ち」
「感謝…？」
「まず…自分の気持ちをぶつけてくれてありがとう。野坂くんの不安はよく分かった。だから言わせて貰うけど」
Aさんはいつになく真剣な顔つきになって、言った。
「この世に必要とされていない人なんていない。生まれてきた意味は誰にだってある」
「！」
「だって、色んな出会いで、今の私が作られている。誰か一人でも欠けていたら、今ここに私はいない。野坂くんがいてくれたから、私はここにいるもの」
……どうして
「強い貴方も弱い貴方も、全部大切な、私たちの野坂悠馬よ。私達みんな、ありのままの貴方が一番好きなの。大丈夫、一人じゃない。貴方には私たちがいる」
この人はいつも
「ありがとう。生まれてきてくれて、私達と出会ってくれて」
僕の欲しい言葉をくれるんだろう。
「貴方には助けられてばかりだったんだよ。自分じゃそんなつもりなかったかもしれないけど」
ようやく伝えられたとばかりに笑顔になるAさんに、見惚れてしまう。
僕が生まれてきてくれたこと。そして僕達が出会えたことへの喜びを、ずっと伝えたかったというのか。
僕の悩みを知ってか知らずか。
恐らく知らずにやったことだろうけど。
だからこそ、Aさんが普段からどれだけ僕のことを大切に思ってくれていることが分かる。
「……卑怯だよ、Aさん」
僕は彼女に聞こえないように呟いた。
声が少し震えた気がする。
「そんなこと言われたら、僕はもう二度と、ひとりぼっちには戻れないじゃないか」
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歌姫 - 楽しく読まさせていただいています。アレスの天秤も読みたいのでパスワード教えてもらえませんか？ (7月30日 23時) (
レス) @page15 id: a1c8bee84a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紅葉 | 作成日時：2023年7月27日 2時
