神の名の下【企画小説】 (ページ8)

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彼の話【朱皇】ページ8

俺と悪魔がまず目に付けたのは母だった。
母は派手好きの浪費家。
悪魔に教えてもらいながら株取引を始めると、見る見るうちに金が増えた。
その金で、母が欲しいと言っていたアクセサリーを買った。

「母上」
「何よ。何か用？」

俺はもう知っていた。
母が姉に構うのは、姉が治療した人たちから金をとっているから。
金づるを、可愛がっていただけの話だ。
何の利ももたらさない俺をこんなぞんざいに扱うのも道理だろう。
ただしそれは今の時点までの話だ。

「これをプレゼントしようと思って」

俺は母にアクセサリーを差し出した。

それが、最初の一歩。

俺は毎日株で金を増やしては、母に贈り物をした。
服だったり、財布だったり、指輪だったりするそれは、日に日に増えていく。
それに伴って母の態度が目に見えて変わってきた。
最初は「アンタ」だった呼び方が「あなた」に変わった。
見下した笑みを浮かべた顔が、甘ったるい媚びた顔に変わった。

もう母は姉に見向きもしない。
姉よりも俺の方がより富をもたらしてくれるとわかったのだろう。

「なんてあっけない」

俺は嘲笑った。

次は父だった。
俺は所謂お坊ちゃま学校に通っていたため、周囲に社長令息や令嬢がごろごろいたのだ。
そこから友達と言える存在を作り、家に招いた。
そして夜遅くまで引き留める。すると、親が迎えに来るのだ。
そう、社長が、だ。

そんな時俺は父を呼んだ。

「父上」
「なんだ」

そう言ってあからさまに鬱陶しそうな顔つきをした父。
父も母と同じだ。姉が無償で治療していると思っている人たちから、裏で金を支払わせているのだ。
そして私腹を肥やしている。だから姉を丁重に扱う。

「友達の父が家に来たので、挨拶してくれませんか？」

無理矢理父を、社長の前に連れ出した。
大人同士で自己紹介を交わしあうと、父の顔は驚愕に染まり、次の瞬間には外用の笑みで応対し始めた。

そんな事を何回も繰り返せば、父の俺に対する態度も変化を見せた。
何の役にも立たないごみを見るような視線から、利益をもたらす者へ向ける目に。
ぞんざいな態度は、にこやかな笑みに変わった。
見る見るうちに姉に構う時間が減っていくのを、俺は笑いながら見ていた。

機械のように俺に接していた使用人も、母への贈り物のほんの一部を渡せば温かな態度に変わった。
姉と俺を比較して蔑む輩も、高価な菓子を贈れば俺を褒めた。

「世の中は金なんだ」

俺は十の時に学んだそれを、今でも信条としている。