彼の話【朱皇】 ページ7
「食事もとらずにどうしたの?」
心配そうな声色で、姉は布団にもぐっている自分にそう聞いた。
「具合が悪いのなら、私が看ましょう。布団から出てきてくれないかしら」
姉のその優しげな声に、自分は思ったのだ。
姉なら、悪魔に憑かれておかしな姿になってしまった自分も受け入れてくれるのではないかと。
そして布団からはい出た。
「姉上……」
姉は驚愕に目を見開いた。
弟の変わり果てた姿を見たからであろう。
自分は訥々と事情を話す。
「マモン、と言う悪魔に、憑かれて、しまった、ようなのです……姉上、これも、治せるの、でしょうか?」
話しかけてもずっと黙っている姉が不安で、自分はそっと姉の袖を握った、その時だった。
「触らないで!!」
ばしっと、姉にものすごい勢いで手をふり払われたのだ。
「姉上?」
自分は呆然と目を見開いた。姉の顔が、初めて見る表情に歪んでいたからだ。
それは、侮蔑。あるいは嫌悪。
「穢れた悪魔が神聖なるこの身に触れるなど、恥を知りなさい!」
そう険しい形相で叫んだあと、姉はハッとしたように口を押えた。
「あね、うえ」
放心した自分が呟いた声を聴くと、姉は見る見るうちに顔を青ざめさせた。
そして踵を返して、部屋から走り去っていく。
段々と遠くなる足音を、自分は信じられないような気持ちで聞いていた。
優しかった姉上。姉上は、自分が化け物になっても変わらず好きでいてくれると言ったのに。
『だから言っただろう? 考えが変わるだろうと』
悪魔が自分を嗤う。
心が黒で塗りつぶされていく。
『あんな偽善者から奪って何が悪い』
悪魔が囁いた。
ああ、姉上。
『全てを手に入れて何が悪い』
囁きに、脳が汚染されていく。
僕は、いや、俺は――。
『「金を、富を、全てを手に入れる。邪魔をする奴には容赦はしない」』
その時何かがパキリと割れた。
きっとそれは、姉に対する愛情で作っていた錠だったのだろう。
封じていたのは悪魔。
強欲という名の、悪魔だ。
悪魔を受け入れた途端、見慣れた普段の自分の姿に戻った。
どうやら好きに変化できるようになったらしい。
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作者名:氷渡ミオ | 作成日時:2017年10月9日 16時