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彼の話【ミケ】 ページ2

物心ついたときにはもう一人だった。
両親は共働きで帰宅するのは深夜。
当然疲れているから僕に何て構ってはくれなかった。
僕はそんな頑張る両親の事が、たまに頭を撫でてくれる人たちの事が好きだったから迷惑をかけないようにしようと思った。
そして出来る事なら何でもやるようにした。
料理、洗濯、掃除。
勉強も運動だって頑張った。どんなことがあっても笑顔を浮かべていた。
褒められたかった、「いい子だね」って撫でてくれる手の感触が好きだったんだ。

だけどそうやって頑張れば頑張るほど両親は僕から離れて行った。
初めは二日に一度、その次は四日に一度、一週間に一度、月に一度とどんどん家に帰ってくる日が減っていく。
そうして両親はついに半年に一度も帰ってこなくなった。
そういう時僕は夜にとても苦しくなる。
暗闇に一人、誰もいない、声が聞こえない。
体がどんどん冷えていく気がして体を丸めるけれど一向に温かくならないのだ。

僕を見てほしい。

勉強も運動も出来る僕の周りには人があふれていた。

僕を見て。

悪戯をするとこちらをみて苦笑する人がいた。

見て。

顔を真っ赤にした女の子に告白された。

けれども僕は満たされない。
胸の中央にぽっかりと穴が開いたようにいつも寒い。

いつしか僕は演じるようになった。
その人が望む誰かの姿がなぜかわかる。
それをなぞるように動けば、僕は誰からも好かれた。

そうするうちに自分がどれだかわからなくなる。
明るいのか暗いのか。
お人よしなのか冷酷なのか。
真面目なのか不真面目なのか。

ああいったいどれが「僕」だったんだろうか?

暗いくらい部屋の中、僕は丸まって呟く。

「寒いなあ」

ああ、ここに誰かがいてくれればいいのに。

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作者名:氷渡ミオ | 作成日時:2017年10月9日 16時

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