挑発。 ページ31
夏休みも終わり、通常授業が始まって少し経った頃。
「…千華?」
本部の廊下の曲がり角で見知った面子と出会う。
「…棗?流架に持ち上げも」
何しているのか聞くよりも前に近くから聞こえてくる陰口の方が気になった。
「…あいつ父親いたんだな」
と影からクスクスと笑う声が聞こえてくる。
それは確実に棗へ向けられた悪意のある言葉。
「天涯孤独じゃなかったのか。…自分の家族も焼き殺したって聞いたけど」
―…最近さ、日向棗が人殺しってあの噂、また中等部で広がり出してきてんだよ。―
翼が教えてくれたあの言葉を思い出す。
初等部ではそれがデマだと信じているからそこまで騒ぎにはならなかったけど
やっぱり最近の棗や流架のどこか近寄りがたい雰囲気や
殺伐とした空気を漂わせることが増えてきた棗の様子に
噂が本当じゃないかと思う生徒もいないわけではない。
ここ最近入ってきた生徒は特にその噂が本当なんじゃないかと不安に思っているようだった。
「でも現に俺のおじさんがさー」
『…』
こういうのは相手にするだけ無駄だと棗や流架は無視して通り過ぎようとする。
私も2人に倣ってついていく。
一番後ろを歩く持ち上げが中等部生をギロリと睨んで牽制しているけど
本人たちは気にせず話し続けている。
「お前のおじさん学園郵便物の検閲だっけ?」
「そうそうやろうと思えば手紙の横流しだってできんだぜ
棗の親父からの手紙だって」
強調するように、恐らく無視して通り過ぎる棗の耳にも届くように言われた言葉は
棗が立ち止まるには十分な効果があった。
棗に続き、流架と持ち上げも振り返る。
「何だよ、またシカトかと思った。親切心から教えてやってんだぜ?
おじさん曰く、お前の親父から毎週何通も来ては、毎日処分庫行きなんだってさ」
「てめえら…」
棗がイラついたように中等部生達を睨む。
「あんだけ毎日処分されてりゃ1通ぐらい誤魔化してもバレないだろうって」
そのおじさんとやらの話をする中等部生はニヤニヤと棗を見下す。
「お前の態度次第で、お前の親父からの手紙、横流ししてやっても構わないぜ」
明らかに嘘だろう発言にも棗が少しだけ反応するのが分かる。
「俺らの言うとおりに動くんならな」
話を受けると思ったのか、中等部生はにやにやと話を続けた。
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作者名:臨楽 | 作成日時:2020年11月6日 0時