いつかのあの時。 ページ22
棗がいた場所に近づくにつれて中等部の生徒達らしい声が聞こえてくる。
「おい、黙ってねぇでなんとか言えよ」
「…」
棗はまだそこにいた。
「棗、何してるの。こんなところで」
「…千華」
私に気づいた棗はしかめっ面のままこっちを見てくる。
こっちに来るなというような顔。
「お?和久井千華じゃん何してんの?迷子?」
「俺らが連れてってやろーか?」
私に気づいた中等部の生徒達が声をかけてくる。
でもさっきまで棗に吐いてたような暴言は一切飛んでこない。
人によって態度変える人種だろうか。
翼が嫌いなタイプだ。
もちろん私もこのタイプは嫌い。
「それともこいつに用事?」
一向に返事を返さないでいると1人が棗を呼び指して意地悪い笑みを浮かべる。
用事…。
チラリと棗を見て、中等部の生徒達を見上げる。
「先輩達、こんなところで油売っててもいいんですか?
さっき先生がまだ来てない生徒を探しているって言ってましたけど…」
嘘だけど。
「まじで?多分それじんじんだ!」
「おい、行くぞ！」
「ちょ、ちょっと待てよ」
3人は慌てたように走っていた。
じんじんがそんなに怖いらしい。
っていうか誰とは言ってないんだけど…。
潜在能力系の生徒だったのね。
呆然と見つめる棗と目が合う。
「…行こ、棗」
「…あぁ」
私は棗の手を引いて歩き出す。
あの日はただ見てるだけだったけど。
まさかこんなふうに誰かの為に走って駆けつける日が来るなんて思わなかった。
いつの間にか、雪も私の横を歩いて着いてきている。
「…能力別クラス、いいのかよ」
「棗が寂しそうだから一緒にいてあげるよ」
「…寂しくねーよ」
そう言ってそっぽ向く棗の口元が少しだけ、緩んだ気がした。
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作者名：臨楽 | 作成日時：2020年11月6日 0時
