月華。【桃】

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A｢望、？｣


望｢ん、なに？｣


A｢ありがとう、｣










望の方にゆっくりと手を伸ばす。





届いた望の手を引いて、自分の方に寄せる。







頬に手を添えると、
望の体温がじんわりと伝わってくる。









A｢望、好きやで｣



望｢…俺も、Aが好きや｣










これはきっと、さよならのキス。




きっと、最初で最後のキス。









交わした唇からは
悲しみも愛しさも、熱も全部伝わってきて


少ししょっぱい味がした。










A｢……望、｣










望が地面に落としたナイフを
今度は私が手のひらに握って



そのまま、貫いた。









望｢…はっ、A…？｣



A｢……さよう、なら｣










さようなら、大好きな人。





でも本当は、こうするべきだったんだよ。



今のまま、一緒にいて良いわけなかったんだよ。









鉄のような臭いが漂い始める。






遠くでは、サイレンの音が鳴り響いていた。



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