5.雨と月 ページ6
＊
今年もそろそろ夏が終わる。
夏休みも終わったし、
学校の窓から外を見ると予報通り雨が降り始めていた。
部活の終わる時間と雨雲のせいで、帰り道は暗い。
街灯に照らされた鳥居の前で立ち止まって考える。
今日は、いるんだろうかと。
「Aちゃん」
後ろから声をかけられ咄嗟に振り返る。
額を隠すように笠を被ったロボロさんが立っていた。
「あのあと、たくさん考えたんや。Aちゃんのこと」
本殿までの階段を上って、
雨に当たらないように縁側に座る。
自分の足元を見ながら、
小さくうなずいて言葉の先を待った。
雑面のせいでロボロさんの表情は
まったくわからないけど、なんとなく、
あの日の返事なのだろうとわかる。…なんとなく。
「あの日、急に居らんくなってごめんな。言い訳にしか聞こえへんかもしれんけど、時間切れやってん。」
「大丈夫です。鬱さんに聞きましたから。」
ロボロさんは夏の間だけしか
強制的に
連れ戻されてしまうことを、
あの日鬱さんに教えてもらった。
それもなんとなくわかっていた。
でもあの時、涙が止まらなくて鬱さんに迷惑かけたな。
「俺も…俺も、Aちゃんが好きや。大好きや。
でも、一緒には居れへん。」
「わかってます。」
「それでもええんか？…理由も、聞いたんやろ？」
聞いた。
目を腫らしながら、涙を必死に止めようとしながら。
ロボロさんは、呪いを持った鬼なんだと。
それでも私は、
「私は、あなたが好きです。どうしようもなく好きなんです。」
今まで足元を見ていた。
でも、雑面でわからなくても、
これだけは目を見て言いたい。
「…そか。」
そう言うとロボロさんは雑面を取る。
初めて見た顔は、優しく温かい笑顔と
桃色の綺麗な瞳からひと粒の涙。
ずっと隠してた額にあった角は
光となって徐々に消えていく。
そして、その光が私を包み込んだ。
“ありがとう”
雨雲から月が出るとともに、彼の姿はなかった。
「また、来年に。」
＊
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作者名：がきんちょ | 作成日時：2023年7月27日 1時
