02:出会い ページ2
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見渡してもどこにも無い。誰も居ない。
もうあと10分で試験が始まるというので廊下には誰一人として出てこなかった。
やばい。落ちるかも。
もう探すのをやめてただその場にしゃがみこんだ。
泣きたくなった、自分は馬鹿だと癇癪を起こしそうにもなった。
「……お前何してんだ」
「へ、」
ただ一人、私の目の前で止まった大きな靴。
威圧的に私を見下ろす男の子は長い睫毛を震わせて睨みつけていた。
階段から上がってきたんだろうか。こんなギリギリに来るなんて物凄い余裕だな、なんてどうでもいい事を頭に思い浮かべてはっとする。
もう不安しかない頭の中でどうにか「受験票、なくして」とだけ発した。
長い沈黙の中、彼は観察するようにゆったり目を泳がす。
それから気だるげにもう一度私の方へ視線を戻して、私の持つ鞄を指さした。
「鞄の中」
「……え、でも鞄はさっき」
「いいから全部ひっくり返せ」
半ば強引に私のかばんを奪い取って、真上から荷物を全部ひっくり返される。
あまりの酷い仕打ちに声が出そうになったのに、なぜか一番最後に、ひらひらと私の探し求めていた大事な紙切れが舞い落ちる。
緩慢な速度で私の手のひらに落ちる1023と書かれた受験番号。
彼は一部始終を見届けて、眉一つ動かさずに私のかばんを落とした。
「何で……分かったの…」
「あ? お前ら凡人の思考回路なんざぬるいんだよ。
特にこんな日みてぇな思考が更に狭まる時は尚更な」
この瞬間、私は今まで開いた事の無かった、ぎゅうぎゅうに詰まった引き出しから勢いよく何かがあふれ出たような気持ちに至った。
何もかも射殺すような目で、真っすぐな背筋と長い脚で、途端に彼は遠のいていく。
あまりにも理不尽で、突然やってきて私を捉えた天才。
声をかけたら、再び私を射止めるその目。
「〜〜…ありがとう、ヒーロー!」
「…………あぁ?」
「高校で貴方を見つけて、ちゃんとお礼する!」
それまで微動だにしなかった表情がここで初めて崩れた。
試すように目を細めてゆるりと笑う。
そして、私の心を完全に射止めたあの言葉。
彼が糸師凛。
恋心を操る、天才傀儡使い。
「あの時から私の心は凛くんのものなの」
「今の話を聞いてる限り、やばいのはあんただったわ」
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時