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「うぅ……お願いだよぉ頼むよぅ…!」
「ぇ……ぁ…え…???」
炭治郎は梢を見て何とも言えない気持ちになった。
恐らく初対面であろう人物に、何故か求婚されて困惑しない人なんていないだろうし。
いつも表情が出ない梢が、可哀想な程に分かりやすく困惑した表情を浮かべているのだから。
かと言って声も掛け辛いものだから、どうしたものか頭を悩ませていた。
一方、少年は絝の裾が皺になるのも気にせずに、固く握り締めていた。
目が地面を歩き回るように動いていたが、少年の頭には右往左往する視界も映っていなかった。
除夜の鐘よりも数倍も速く、重く打ち付ける心臓が痛かった。
神頼みのようなうわ言をボソボソと梢に向かって言っていたが、少しの沈黙すら気になって顔を上げてしまった。
紡ぎたての生糸のような髪が、柔らかい輪郭の傍で揺れている。
肌が恐ろしく白く、薄い小さな口が桜色を暈す。
ちょん、と上がった鼻が可愛らしく、短い眉さえいじらしい。
翡翠の瞳を髪と同じ色をした長い睫毛が縁どっている。
自分より一回りも二回りも小さな手や華奢な体。春の陽気のような香り。
それを目にしてしまった途端に、急上昇した体温が体中の水分を蒸発させて、遂に何も言えなくなってしまった。
梢は状況を飲み込めない頭で、必死に考えた。
何故、目の前の少年に求婚され、そして再び黙りこくってしまったのか。
取り敢えず何か言ってみようと、その時は思っていたが、それが間違いだった。
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作者名:ほっぷすてっぷ | 作成日時:2024年1月5日 22時